ニュースアプリ運営のスマートニュース(東京・渋谷区)が米国など海外事業を強化する。9月に調達した約250億円は現地スタッフの採用などに充てる方針だ。株式価値は2100億円超と日本を代表するスタートアップとなり、グローバル化を進める同社の原点は、創業者の鈴木健最高経営責任者(CEO、46)が30年以上前に東西冷戦下のドイツで目にした「ベルリンの壁」にあった。

  鈴木氏はブルームバーグのインタビューで、9月の資金調達について「ビジョンと戦略を評価してくれた投資家に入ってもらった」と説明し、「オーバーサブスクライブ(需要超過)で多めの金額に修正することを決議した」と述べた。

  今回の「シリーズF」では任天堂創業家を含む日本や欧州、米国、アジアの機関投資家らが合計251億円を出資。調達資金は米国での事業拡大と新たな社員の採用に充て、米国の社員数はエンジニアやリーダーの採用を中心に今後1年間で倍増させる考えだ。

  現在の社員数は、米国の100人を含め国内外で500人。日本でも採用を増やし、鈴木氏はグローバルで「早い時期に1000人規模」にする計画だと話している。

グローバルで5000万ダウンロード

  スマートニュースは2012年の設立で、東京、サンフランシスコ、パロアルト(米カリフォルニア州)、ニューヨークに拠点を置く。政治、経済、エンターテインメントなど250種類以上のジャンルの記事を国内外の新聞や雑誌、テレビ媒体などから抽出、配信している。アプリのダウンロード数はグローバルで5000万、利用者数は月間2000万人以上だ。

  世界中の情報を配信することを企業ミッションとし、アルゴリズムを使って毎日数千万件の記事の中から主義主張など偏りのないように選別。20年の米大統領選では右派、左派、中道と提供する記事のバランスを意識した。

SmartNews CEO Ken Suzuki

  鈴木氏によると、ニュースビジネスを立ち上げたきっかけは中学時代にまでさかのぼる。父親の仕事の都合で旧西ドイツ・デュッセルドルフの日本人学校に通っていた1989年、修学旅行でベルリンの壁を越え、旧東ドイツに入国した。西ベルリン側の記念碑には、2週間前に壁越えに失敗した家族の名前があった。

  同年11月、ベルリンの壁が崩壊。鈴木氏は「世の中には不条理な壁がある、心の中にあるバーチャルな壁も含めて、なぜ存在するのかを考えた」と当時を振り返る。

  89年はワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が発明され、インターネットで人や情報が国境を越えられるようになった年でもある。壁がなぜ生まれ、どうすれば取り払えるかを研究するため、同氏は東京大学大学院の博士課程に進んだ。

米国成功の裏に失敗経験

  スマートニュースは14年10月に米国へ進出し、現在は米国でユーザー1人当たりの月間平均滞在時間が最も多いニュースアプリに成長した。成功の背景にあるのは過去の失敗経験だ。

  起業前の12年3月、共同創業者の浜本階生最高執行責任者(COO)と渡米し、現地展示会で後にスマートニュースとなる原型アプリを出展したが、電波状態の悪さから来場客がダウンロードできず、体験してもらう機会を逃して帰国した苦い思い出がある。その時の教訓を生かし、地下鉄でもニュースを読めるように改良した。

  今後の戦略について鈴木氏は、日米以外の他国へのビジネス展開を挙げた。さらに、詳細については明らかにしなかったが、「人々の行動や意思決定をサポートする」仕掛けづくりも行っていきたいとも話した。

  同社は4月、新型コロナウイルスワクチンの予約や接種の時期を確認できる「ワクチンアラーム」を導入。10月からは衆院選の「期日前投票マップ」の提供も始め、自宅近くの投票所や候補者の詳細を示すなど期日前投票をしやすくした。

  また鈴木氏は、新規株式公開(IPO)の可能性について「上場するというのは社会の公器になること。多くの人々の目に入る。そう意味で肯定的に考えている」と発言したが、詳細については言及しなかった。売却の可能性については「いろいろなことがあり得る。最適な選択を考えていく」と述べた。

  DZHフィナンシャルリサーチの田中一実IPOアナリストは、「海外も含め、アフターコロナの経済活動再開による広告収入の回復がアップサイドとして期待できる」と指摘する。

  一方、投資家に対し説得力を持つには「市場でのニュースやキュレーションアプリへの期待が低迷する中、広告以外での課金の仕組みをつくり、ニュースアプリと言えばスマートニュースと言われる付加価値をつける必要がある」と課題を挙げた。