中国女子テニス選手の彭帥(ほうすい)さんがインターネット交流サイト(SNS)上で、中国共産党元政治局常務委員の張高麗・前副首相に、性的関係を強要されたと告白した。こう報じられてから、はや1カ月。北京冬季五輪や人権問題と絡めた報道は、今も続いているが、この種の記事だけでは問題の本質は見えてこない。(文 外交評論家・宮家 邦彦)
◆「告白」の内容は
「私は良い女の子ではない、悪い悪い女の子だ。あなたは私を自分の部屋に引き入れ、十数年前と同様、私と性的関係を結んだ。あなたは共産党常務委員に昇進し、北京へ行き、私との連絡を一度絶ったのに、なぜ再び私を探し、私に関係を迫ったのか? 感情とは複雑で、うまく言えない。あの日から私はあなたへの愛を再開した。…あなたはとてもとても良い人だった。私は小さい頃から家を離れ、内心極度に愛情に飢えていた。…あなたは私に2人の関係を秘匿させた。関係は終わったが、私にはこの3年間の感情を捨て去る場所がない。私は自滅する覚悟であなたとの事実を明かすことにした」
彭帥さんの「告白」の概要は以上だが、少なくとも「関係を強要された」とは言っていない。
この「告白」の背景については、諸説ある。極め付けは中国共産党内部の「権力闘争説」だ。習近平体制を暗に批判するためだったとか、逆に習政権側が反対勢力を黙らせるための警告だったとか、相変わらず北京の政治雀(すずめ)は騒がしい。
さらに、この騒動は海外にも波及し、「党最高幹部に性的関係を強要された若い女性が告白後に行方不明となった」「彼女に対する人権侵害は認められない」と、対中批判が急速に広まった。
◆人権問題だけではない
確かに現在、彭帥さんに行動と発言の自由はないだろう。しかし、中国でこの種の「人権侵害」など決して目新しくない。「彭帥騒動」の本質は必ずしも「人権問題」だけではないのである。
最近の欧米諸国からの批判に耐えかねたのか、中国側は11月下旬から一連の「情報戦」を開始した。
彭帥さんの「英語釈明文」「テニスイベントへの参加」「北京市内での会食」に続き、11月21日には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長との約30分の「ビデオ通話」が報じられた。
しかし、彭帥騒動と北京冬季五輪はそもそも無関係。中国側の一連のお粗末な情報戦は、中国に厳しい勢力が彭帥さんを利用して中国批判を仕掛け、中国側がこれに応戦した結果とみるべきだろう。
◆あまりにゆがんだ社会
それでは問題の本質は何なのか。誤解を恐れず筆者の見立てを書こう。
「告白」の中で、彼女は相手への愛情を隠していない。それどころか、行間からは、あまりに身勝手な相手に捨てられた鬱憤(うっぷん)から自暴自棄になり、発作的に「告白文」を書き上げ、投稿したらしいことが、読み取れる。
筆者には、森羅万象が政治的意味を持つ中国で、幼少からテニス一筋で厳しく育てられ、親の愛情を知らないまま成功を収めたものの、時の権力者に翻弄(ほんろう)された「天才テニス少女」の半生が哀れでならない。
今ごろ、彭帥さんがどこで何をしているかは知る由もない。が、今後彼女が自由に自らの心情を語ることは二度とないだろう。
あまりにゆがんだ中国社会は、彼女ほど有名ではないが、彼女と同じような悲しい境遇を生きる人々を毎日生みつつある。これこそが、彭帥騒動の本質ではないか。
(時事通信社「コメントライナー」より)
【筆者紹介】
宮家 邦彦(みやけ・くにひこ) 1978年外務省入省。在米大使館一等書記官、中近東第一課長、日米安全保障条約課長、駐中国公使、駐イラク公使、中東アフリカ局参事官を歴任。2005年に退官。切れ味鋭い外交評論家としてテレビ出演、寄稿、講演など多方面で活躍中。近著に「AI時代の新・地政学」「トランプ大統領とダークサイドの逆襲」。
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