16日にロシアがウクライナに軍事侵攻するという説は本当だったようだ。14日以降、ロシア、米国、ドイツ、フランスなど欧米主要国の首脳が活発に展開した外交と称する話し合いは、「16日侵攻説」を裏付けているように見える。バイデン大統領やサリバン大統領補佐官が声高に訴えていた危機説、ロシアが「ヒステリー」と呼んだ情報戦争には明確な根拠があった。一連の流れを見ているとそんな気がしてくる。ロシアのラブロフ外相は14日、プーチン大統領と会談した。外相が「外交路線の継続」を提案、プーチン氏がこれを受け入れたと報道されている。これを受けて15日、プーチン大統領がドイツのシュルツ首相と会談、ロシア軍の一部がウクライナ国境周辺から撤退し始めたと公表した。ロシアと西側諸国の緊張が一気に高まった背景には、米国が欧米首脳に伝えていたとされる「16日侵攻説」があった。仮にそうだとすればこの情報戦に米国は勝利したことになる。

ロシアがヒステリーと呼ぶのは、「今週中にもロシアがウクライナに侵攻する可能性がある」と強い警告を発した米国の情報戦略である。根拠は不明だったがウクライナのゼレンスキー大統領は15日、「ロシアが16日に侵攻するとの説がある」と明らかにした。メディアによるとどうやらこの「16日侵攻説」は、米国サイドがだいぶ前から西側諸国に伝えていたようだ。西側諸国は一致協力してロシアと対峙する同時に、そうなった場合は大規模な経済的代償を求めることになるとロシアを牽制し続けていた。16日にロシアが侵攻する可能性を米国がどうやって確認したか全くわからない。盗聴、盗撮、スパイ、情報入手の手段は何でもありだ。国際的な情報戦争のこれが常識だろう。いずれにしても米国はかなり正確な情報を入手し、これを元にロシア侵攻の危機を煽った。米国のあまりに強烈なヒステリーにプーチンも焦ったのだろう。個人的な仮説だがプーチンは、状況を変えるためにラブロフ外相を使った。

14日の会談は異様だった。長いテーブルが置かれた会議室の両端に両者が座り、ラブロフ外相が「外交路線の継続」を大統領に提案している。この会議室が何のための会議室か分からない。異様なのはこの光景がわざわざテレビで公開されたことだ。プーチン氏は16日侵攻説に一切触れていない。外交交渉が長期化することを懸念しながら対話路線を受け入れた。これによって当面の危機は回避され、ウクライナ国境をめぐる緊張は目先的には緩和した。世界的に株価は急騰し、金利は下がった。米国はとりあえず情報戦争に勝利したように見える。果たしてそうなのか。バイデン大統領はこうした情勢を受けて15日、「ウクライナ攻撃の可能性は引き続き非常に高く、われわれは断固として対応する用意が整っている」(ロイター)と強調した。相も変わらぬ危機感の演出である。シナリオはないと思うが、世界のトップリーダー達は危機と題された舞台の上で踊っているようにしか見えない。だって現実は何も変わらない。