[東京 1日 ロイター] – 政府が日銀の次期審議委員として提示した高田創氏はマーケットに精通し、市場では大規模な金融緩和の推進を支持した「リフレ派」とは一線を画すとみられている。同氏の就任で金融政策を巡る政策委員会の勢力バランスが変化する可能性がある。岸田文雄首相がリフレ派ではない専門家を起用する案を示したことで、黒田東彦日銀総裁の後任選びにも微妙な影響が出る可能性がある。 3月1日、 政府が日銀の次期審議委員として提示した高田創氏はマーケットに精通し、市場では大規模な金融緩

<マーケットのスペシャリスト>

高田氏は1982年に東京大学経済学部を卒業し、旧日本興業銀行(現在のみずほ銀行)に入行した。みずほ証券で市場調査部長を務めるなど、債券市場を中心に分析してきた。国会での同意を得れば、「リフレ派」とされる片岡剛士審議委員の後任となる。

高田氏が新しい審議委員候補になったことで、市場関係者からは歓迎の声が上がっている。大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは「マーケットがわかる委員がいることで、ボードの議論がより建設的になると思う」と話す。

<リフレ派の存在感後退>

今回は岸田内閣で初めて行われた審議委員人事となった。岸田首相の金融政策へのスタンスが、アベノミクスを推し進めた安倍・菅政権を引き継ぐのか、一線を画すのかで市場では注目を集めてきた。

高田氏は「リフレ派の人ではない、非常に中道的な見方をする方だ」とJPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミストは話す。

「『黒田緩和』を9年近くやってきて、リフレ的な考え方では日本経済への問題に対処できないことは明らかになっている。高田氏のように財政・金融問題に高い見識を持っている方が選ばれたことは、高く評価されるべきではないか」(東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト)との指摘もある。

<首相の意向か>

アベノミクスの実現に向けて、安倍・菅政権では経済ブレーンが深く関与する形でリフレ派と目される学者が相次いで審議委員に起用されてきた。しかし関係者によると、今回の人選に当たっては岸田首相が候補者リストをもとに自ら決めたとみられる。

夏の参院選後には黒田東彦日銀総裁の後任選びが本格化するとみられ、この観点からも今回の審議委員人事が注目されてきた。ある閣僚は「岸田首相の『新しい資本主義』はすなわち『脱アベノミクス』。徐々に岸田首相は独自色を出していくだろう」と話す。「もうリフレ派の時代ではない」(元財務省幹部)との声もある。

<金融政策は「中道的」にシフトも>

ロシア軍のウクライナ侵攻で、原油や小麦など資源価格は急騰し、日本の物価にも上昇圧力が掛かる。JPモルガンの鵜飼氏は「金融政策が変わるということは当面はないと思うが、その先に物価が上がってきて政策をどうするかという議論になったとき、リフレ的な『ここで非常に頑張る』というよりは中道的な方になっていく」と指摘。高田氏を審議委員に起用する人事はその1つの兆候と位置づける。

先行きの物価上昇予想を反映して金利が再び上昇すれば、イールドカーブ・コントロール(YCC)の妥当性が問われる可能性がある。大和証券の岩下氏は「YCCはマーケットにある程度犠牲を強いながら成り立っている。今後見直す場合、マーケットが分かるエコノミストが審議委員に入るのはとてもいいことではないか」と話す。

<YCCは「犬のしつけ」>

高田氏は仏文学者を父に持ち、ユニークな表現で情報発信をしてきた。金融庁の審議会の委員として2018年に高齢化社会での資産運用のあり方を議論する際には、1950年代の社会構造に基づく資産形成のあり方を漫画「サザエさん」の登場人物を用いて「波平さんモデル」と表現した。

今年2月7日付リポートではYCCを「犬のしつけ」と表現した今は日銀の意思が犬のしつけのように市場に浸透しているものの、局面が変化して金利上昇という「野生の本能」が呼び起こされれば、「犬のしつけだけでは抑えきれなくなることもある」と述べた。

多数のリポートを市場に発信してきた高田氏が、物価高の難局でどのように情報発信していくのか注目される。

(経済政策取材チーム)