【ワシントン時事】バイデン米政権は、ロシアによるウクライナ侵攻に米国が軍事介入を迫られる事態を避けようと全力を挙げている。戦闘機の供与拒否に加え、ロシアが大量破壊兵器を使用した場合の報復措置についても曖昧な態度を保つ。米欧に波及し「第3次世界大戦」(バイデン米大統領)に発展するのを防ぐためだが、市民への無差別攻撃はやまず、焦りを募らせている。

米、ウクライナに追加支援 対戦車・地対空ミサイルか

 「甘く考えるな。米国の要員が攻撃的な装備を送ればそれは『第3次世界大戦』だ」。バイデン氏は11日、下院民主党の会合で議員を前に強く警告した。党内にもウクライナへの戦闘機提供を支持する声があることを踏まえた発言で「米国はウクライナでの戦争は戦わない」と改めて強調した。

 ロシアが化学兵器を使用した場合の対応に関しても、バイデン氏は「深刻な代償を払うことになる」と述べるにとどめ、具体的措置には言及しなかった。サキ大統領報道官は10日の記者会見で、ロシアによる使用の可能性を指摘したものの、米国の「レッドライン(譲れない一線)」なのか問われると言葉を濁した。

 バイデン政権は「レッドライン」という言葉に強いトラウマを抱えている。オバマ元大統領がシリア内戦でのアサド政権による化学兵器使用を「レッドライン」と断言しながら軍事行動に踏み切らず、国際的な信用を失ったためだ。当時の政府高官は現政権の顔触れと重なる。

 軍事介入せずに制裁でロシアを「経済封鎖」に追い込むバイデン政権の手法は、これまでのところ米国民に支持されている。しかし、効果的な対ロ抑止の手だてを示せないまま、現地からは連日惨状が伝えられ、対応が「不十分だ」と世論が不満を募らせていく可能性もある。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは10日、米欧が地対空ミサイルシステムなど、より防衛的な色合いの濃い兵器の提供を検討していると報じた。米国はロシアへの刺激を避けつつ、ウクライナ軍への支援を強化するぎりぎりの線を模索している。