[ロンドン 11日 ロイター] – ロシア軍がウクライナでの戦闘を続け、西側諸国が世界各国に対ロシア制裁への支持を求めていた3月。南アフリカの左派指導者ジュリアス・マレマ氏は群衆に向かってこう語りかけていた。彼自身も彼の支持者も、反アパルトヘイトの闘いを支援してくれたロシアに敵対することは絶対にないと。 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻は、「影響力」をめぐるグローバルな争いを刺激している。この争いは、実際の戦闘と同じくらい重要ということになるかもしれない。この対立の中で、ロシア政府が新興諸国との歴史的な関係を利用しようとする一方で、米国とその同盟国はこれまでにも何度か、いわゆる「グローバル・サウス」(南半球を中心とする発展途上国)からの支持を得るのに苦労したという経緯がある。

ロシア政府は長年にわたり、米ゴールドマン・サックスが2001年にBRICsと命名した新興市場、つまりブラジル、インド、中国との関係を強固なものにしようとしてきた。

ロシアのリャブコフ外務次官は3月30日、国営テレビRTに対し、この戦争の終結後、BRICsは「新しい世界秩序の中心」となるだろうと述べた。ロシアのメディアは、発展途上国に対してモスクワへの制裁に参加するよう説得する米国の試みは、裏目に出るだろうと主張している。

現実はもっと複雑だ。なんと言っても、ウクライナで民間人の居住地域が標的となり犠牲者が出ている証拠は増大している。とはいえ、その一方には、イラク侵攻から抑圧的な体制への支援、「グローバル・サウス」の困窮を加速させたとされる通商政策に至るまで、西側諸国に対する積年の恨みがある。

そうした傾向はBRICsだけでなく、発展途上国全体に広がっている。以前から中国は、自国の経済的・政治的影響力を発展途上国に広げていく作戦の一端として、西側諸国に対する懐疑的な見方を利用してきた。ロシアはそれをもっと踏み込んで利用しようとしている。

とはいえ、ウクライナ戦争の現実も影響を及ぼしつつある。国連総会は7日、ロシアを国連人権理事会から除名する決議について投票を行い、ウクライナと米国、欧州の同盟諸国にとって大きな勝利に終わった。ロシアが「反対」に投票するよう圧力をかけたにもかかわらず、ブラジル、インド、南アフリカなどは棄権に回った。一方で中国は「反対」票を投じた。

<分裂するソーシャルメディア>

アルフレッド・ディーコン研究所(豪メルボルン)のマフムード・パルグー研究員によれば、2月22日から3月15日までの期間、ロシアとウクライナの問題に触れたアラビア語でのツイッター投稿のうち、約12%がシリアやイエメン、イラク、アフガニスタン、あるいはパレスチナの紛争にも言及。西側諸国のダブルスタンダードを指摘する投稿も多かった。

パレスチナ政策調査研究センターが3月に実施した世論調査によれば、パレスチナ人の43%がウクライナとの戦争についてロシアに責任があるとしたのに対し、ウクライナに責任があるとしたのは40%だった。ただ回答者の57%は、西側諸国は欧州における紛争について判断する際に、イスラエル・パレスチナ間の紛争とは別の基準を採用していると考えていることが分かった。

パキスタンとスリランカでは、穀物とエネルギー供給の途絶によって引き起こされた食料・燃料価格の急騰が、すでに経済的・政治的危機を引き起こしている。中国寄りの傾向を強めていた両国では、今回の危機が西側諸国への批判を生み出している。ただしその一方で、足下の問題は、ロシアの軍事行動と、中国に対する債務の増大によるものだという主張も見られる。

侵攻開始以来、ロシアの報道機関は西側諸国のインターネットやテレビ視聴者とますます隔絶されており、こうした西側に批判的なやりとりに参加し盛り上げようと血眼になっている。特に力を入れているのが、すでに確固たる足がかりを得ていた中南米地域だ。RTスペイン語放送のフォロワーはツイッターで350万人、フェイスブックで1800万人を数え、RT英語版のフォロワーよりも多い。

シンクタンクの米大西洋評議会の系列であるデジタルフォレンジック研究所によれば、RTスペイン語放送と、同じくロシア国営スペイン語放送のスプートニク・ムンドは、ツイッターにおけるウクライナ侵攻関連のスペイン語投稿で最もシェアされている15のドメインに入っている。「最近の虐殺はウクライナによって捏造(ねつぞう)されたものだ」といったロシア側の陰謀論を拡散している例も多い。

英国のシンクタンクであるデモスは、侵攻が開始された2月24日、あるいは国連で重要な決議が行われた3月3日にツイッター投稿が急増した数百のアカウントを追跡。ロシアは、発展途上国における複数言語によるソーシャルメディア上での会話に、人為的な影響を与えようとしてきた可能性があると分析している。そうしたアカウントの大半は、反欧米・反植民地主義コンテンツのリツイートと、ロシア支持・侵攻支持の内容を混在して投稿していた。

<標的となるナショナリスト指導者>

デモスが確認した投稿は、ウルドゥー語、シンド語、ペルシャ語を含む複数の言語で書かれていた。また、インドのナレンドラ・モディ首相と、ヒンドゥー民族主義を掲げる与党インド人民党(BJP)を支持するネットワークや、南アフリカのヤコブ・ズマ前大統領を支持するネットワークに組み込まれている例も見られた。ズマ氏は、愛弟子であるマレマ氏と同様に、開戦以来一貫してプーチン氏を公然と支持している。

インドでは、右派寄りでヒンドゥー民族主義を支持する年長の世代は、冷戦中にソ連がインド政府を支援してくれたこともあってロシア政府に同情的な傾向が強い。今回の戦争を機に、ウクライナ支持の傾向が強い若い世代との分断が露呈した格好だ。

平時からロシア製兵器の主要輸入国であるインドは、西側諸国による制裁にもかかわらずロシア政府との通商関係を維持したい意向を明らかにしてきた。報道によれば、これまでロシア産原油を輸入していなかったにもかかわらず、ロシアが大幅な割引価格で提供する石油を引き取っているという。

とはいえ、インドも制裁と無縁でいられるわけではない。エア・インディアは先週、保険に加入できなくなったことを理由として、モスクワ便の運航停止を発表した。

ブラジル政府も圧力を受けているが、その中には国内政界主流派からの圧力もある。侵攻の1週間前、ジャイル・ボルソナロ大統領はモスクワでプーチン大統領を訪問し、両国は「連帯」していると述べてプーチン氏を賞賛した。

だが数日後、ハミルトン・モウラン副大統領はブラジルが「中立」を保つことを否定し、ウクライナの主権を擁護すると述べて大統領を激怒させた。ブラジル外務省は4月6日、同国はキーウ(キエフ)近郊のブチャで殺害された市民に「連帯する」と述べたが、ロシア非難は控えた。

ジョー・バイデン米大統領は、直近では8日に南アのラマポーザ大統領に電話をかけ、ウクライナ情勢を巡って共同戦線に加わるよう再び圧力をかけた。ラマポーザ大統領は10日に出席した政治集会においてバイデン氏との電話が「穏やかな雰囲気だった」と述べたものの、政策は変更していない。国際的な影響力を巡る争いが終幕を迎えるのはずっと先の話だ。そして米政府は到底、強気の姿勢で振る舞える立場にはない。

(Peter Apps記者 翻訳:エァクレーレン)