ロシア・プーチンによるウクライナへの侵略戦争が始まって2カ月が経過した。週末には各種メディアが、この間の戦況を総括していた。そんな中で気になったのはジョンソン英国首相の発言だ。同首相はインドを訪問し、モディ首相との首脳会談を終えた後の記者会見で次のように語った。「(ロシアが)ウクライナでの戦争に勝利する『現実的な可能性』がある」(CNN日本語版)と。22日のことだ。この記事を見たとき、「この人は一体何をいっているのだ」、ある種の怒りに近い感情が脳裏を駆け巡った。「(状況は現時点で)予断を許さない」とも指摘しているが、あまりにも無責任で無防備な発言ではないか。そして次にこの発言の根拠を探したのだが、調べた限りではどのメディアにもない。時事ドットコムには「これに先立ち、同日付の英紙タイムズなどは西側諸国の情報機関当局者による同様の見通しを報じていた」とある。
専門家の分析を引用した可能性はある。とはいえ、世界をリードする有力な政治家が、死に物狂いで戦っているウクライナの人々を無視するかのように、「ロシアが勝利する可能性がある」と発言することの自体が軽率で非常識だ。ウクライナ兵士の士気に影響するだけではない。同国の防衛戦争を応援している世界中の人々の“祈り”を無謀にも打ち砕く可能性がある。そして問題は、世界中のメディアがこの発言を批判しないことだ。仮に現実的な可能性があるとしても、ジョンソン首相はそれを口にすべきではない。逆の立場で考えてみる。プーチンは「ロシア敗北の可能性」について頭の片隅で多少なりとも思いを巡らせたとしても、絶対それは口にしないだろう。それどころか、「無差別虐殺はウクライナの仕業」、「民間人を殺戮しているのはウクライナ人」と嘯くだろう。良い悪いではない。立場とはそういうものだろう。
一方、この戦争の出口を感じさせるニュースもあった。時事ドットコムには「ロシアの政権内部では数週間前から戦闘終結に関するシナリオが検討され始めた」とある。あり得る話のような気がする。独立系メディア「メドゥーザ」が22日に報じたものだ。目的は「プーチン大統領の支持率を維持したまま戦闘を終結させるシナリオ」を検討したとある。だが現状ではそんな虫のいいシナリオはどこにもない。だからプーチンは、「内政上も侵攻を継続する以外ないと判断している」と分析している。この結論が戦争長期化と「ロシア勝利の現実的可能性」につながっているのかもしれない。プーチンは24日、ロシア正教会トップで自ら師と仰ぐキリル総主教が主催した復活祭に参加した。大勢の信者とともに十字を切る姿が報道されているが、その表情は地獄を垣間見ているかのように暗い。この“暗さ”に一縷の望みを見出そうとしたのは私だけではないだろう。