[オーランド(米フロリダ州) 27日 ロイター] – 米国の消費者は、動画や音楽の配信を含むオンラインのサブスクリプション(サブスク、定額制)サービス利用に疲れ始めた様子だ。これは経済全般や市場がどこに向かっているのかを暗示しているのかもしれない。

物価高騰とそれに伴う実質所得の減少で消費者は支出習慣を見直さざるを得なくなり、新型コロナウイルス下で実施されたロックダウン(都市封鎖)の期間中に最も爆発的に伸びたサブスク市場が縮小に転じる危険にさらされている。

その証拠が先週、動画配信大手ネットフリックスから提示された。世界全体の有料会員数が3月末時点で初めて減少に転じ、同社はこの落ち込みが加速する恐れがあると警告したからだ。

ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)も動画配信サービス「CNN+(プラス)」を開始から1カ月足らずで打ち切ると発表。この間の視聴者数は1日当たり最大でも1万人にとどまったと伝えられている。

サブスク料金の一括管理と不要なサービスの解約ができるアプリ(利用者約250万人)を提供しているトゥルービルによると、サブスクの平均解約件数が昨年7月、同社が創業した2015年以降で初めて新規契約件数を上回った。この流れは強まりつつあり、今年3月時点でサブスク契約総件数に占める新規契約の比率は前年同月の7%から4.4%に下がった一方、解約率は5.6%からほぼ倍増して10.4%になった。

トゥルービルの最高収入責任者はロイターに「人々は財布のひもを引き締め、支出先を絞り込む姿勢を強めている。サブスク(市場)のピークはもう過ぎてしまったかもしれない」と語った。

米国の消費者は、ロックダウン期間中にビジネス関連のソフトウエアから語学学習、動画配信、エンターテインメント系アプリまで数多くのオンラインサービスのサブスク契約を結んだ。在宅勤務が可能な世帯の貯蓄額が、旅行や大規模イベント参加、社会活動などの自粛によって大きく膨らみ、月々の支払いが少ないさまざまなサブスク利用の負担を簡単に吸収できたからだ。

ウェスリフト・ドット・コムが今年1月に幅広い年齢層の成人1030人を対象に実施した調査では、少なくとも1件の動画配信サービスを契約していると答えたのは96%、音楽配信サービスは80%、料理宅配サービスは57%、美容健康系サービスは51%、分類不能が56%という結果になった。

ところが各地でビジネスや娯楽、旅行などが次第に正常な状態に戻ってきた中で、食品とエネルギーの価格高騰によって家計貯蓄が目減りしたため、多くの人々は膨大になった直接引き落としリストの圧縮に乗り出している。

今のところ米国の消費全般が、インフレや金利上昇、ロシアのウクライナ侵攻がもたらす脅威をしのいでいるように見えるのは間違いない。多くのエコノミストは、労働市場がしっかりしている限り、消費者は痛みに耐えられるとも主張している。足元の米国の失業率は3.6%という低水準だ。

3月の米小売売上高は前月比0.5%増で、2月分も0.8%増と大幅に上方改定された。ただ、3月はガソリン消費が売上高全体を押し上げた面があり、オンライン支出は過去1年余りで初めて前月比でマイナスを記録した。

大事なのは、名目賃金の平均伸び率が5.8%と消費者物価指数(CPI)前年比上昇率の8.5%を大きく下回っているという事実だ。消費者心理も到底盤石とは言えない。

<ハイテク株の不振>

株式市場を見ると、パンデミック発生以後にアウトパフォームしてきたハイテク株とその関連銘柄が、現在の売り局面で最も下げがきついセクターの1つになっている。

恐らく過度の熱狂と楽観論が、現実に屈したのだろう。もはやテレビ番組は一晩で視聴するには余りにも多いし、人々のサブスク消費意欲には限度があると分かってきた。今となっては、コンテンツは飽和化したハイテク業界において最も過剰な投資が行われている分野の1つだと判明しつつある。

ナスダック総合指数の今年に入ってからの値動きには、この先のサブスク関連収入の流れは従来考えられていたほど着実でないかもしれないという認識を反映している部分がある。同指数は2020年3月の底値から145%上昇して昨年11月に最高値を更新したが、そこから23%下落。S&P総合500種も20年3月から今年1月まで120%上昇した後、13%下がった。

ハイテク株投資を重視しているキャシー・ウッド氏の上場投資信託(ETF)「アーク・イノベーション」に至っては下落率が年初来で46%、今月だけでも23%に達している。

ケーン・アンダーソン・ラドニックのポートフォリオマネジャー、ジュリー・ビール氏は「出費が増え続けて消費者の行動に影響を及ぼし始めている。そして簡単に支出を減らせる分野を探した結果、人々はサブスクに目を向け出した。消費者の心理は変わろうとしている」と述べた。

独立系ストラテジスト、アンドレーズ・ステノ・ラーセン氏が導き出す投資戦略の結論はこれ以上ないぐらいに明快だ。「人々が必要とする物をそろえ、必要とされない物は手放す。単純な話だ」と語り、アマゾン・ドット・コムやテスラなど裁量的な支出に依存する銘柄ではなく、ウォルマートやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった生活必需品を扱う企業を買うよう投資家に提言している。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)