Clyde Russell

[ローンセストン(オーストラリア) 5日 ロイター] – ロシアのコモディティー輸出に対する欧米を中心とした制裁措置の主眼は、原油と天然ガスに置かれている。だがウクライナ侵攻への代償をロシアに払わせたいと考える人々が直面する課題を考える上で、最も参考になるのは恐らく石炭だろう。

ロシアはオーストラリア、インドネシア、南アフリカに次いで世界第4位の石炭輸出国で、大西洋と太平洋の両方面に供給できる。

主なロシア産石炭の買い手である欧州は、輸入禁止を提案したがまだ完全に実行していない。日本もロシアからの購入打ち切りを計画している。

韓国はロシア産エネルギーの輸入禁止方針を正式に打ち出しておらず、現在検討中とされる。世界の2大石炭消費国である中国とインドは対ロシア制裁には加わっていないし、むしろ大幅に安い価格で買えるチャンスを生かして輸入拡大に動いているところだ。

こうした中で、2月24日のウクライナ侵攻開始以降のロシアによる石炭の海上輸送状況を見ていくと、石炭輸出量は維持されるどころか、実質的には増加していることが分かる。買い手の顔ぶれは変わっているものの、目減りした欧州と日本向けの輸出分以上に、インドやトルコなどを中心とする購入量が多くなったのだ。

資源データ分析企業ケプラーによると、6月のロシアの貨物船による石炭輸出量は1645万トン。5月の1656万トンには届かなかったとはいえ、前年比では3.5%増えた。5月も前年比は3.8%増だった。しかもウクライナ侵攻前の3カ月、つまり昨年12月の1343万トン、今年1月の1228万トン、2月の1308万トンと比べても大きく上回っている。

このケプラーのデータを詳しく調べると、中国がロシアからの石炭輸入をウクライナ侵攻後に増やしたことが明らかになった。もっとも中国は石炭輸入全体を増やしたという事情もある。

6月の中国による貨物船経由のロシア産石炭購入量は472万トン、5月は457万トンで、1月と2月の312万トンと261万トンから増加した。ただし昨年6月と5月の購入量はそれぞれ516万トンと408万トンで、前年比はおおむね横ばいだった。

6月と5月のインドのロシア産石炭購入量は116万トンと83万6072トンで、1月の67万8051トン、2月の50万1115トンよりずっと多い。昨年6月の66万4824トンと、同5月の66万7982トンも大きく上回った。

とはいえインドの石炭全輸入量に占めるロシア産の割合はなお小さい。6月の場合は、全体で2608万トンのうち4.4%にとどまっている。

<試練の時期>

世界第3位の輸入国である日本はこれまでにある程度ロシア産石炭の購入を減らしてきた。6月到着分は48万3096トンで、5月の57万2990トンから減少。さらに1月の104万トン、2月の113万トンに比べてほぼ半分となっている。

欧州で貨物船を経由して最も多くのロシア産石炭を調達しているのはドイツ、オランダ、イタリアだが、3カ国とも購入量を圧縮。6月の合計到着分は147万トンと、5月の259万トンを下回った。

その半面トルコはロシア産石炭の輸入を増やし、6月到着分は181万トンとケプラーが集計を開始した2017年以降で月間ベースの最高水準に達した。5月到着分は106万トン。2月以降は毎月増えている。

これらのデータからは、ロシアが販売価格を引き下げているとしても、石炭輸出量を維持できている状況が読み取れる。

一方でロシアが大幅に石炭輸出を増やしたくても、そうするのが難しいという事情もうかがえる。インドと中国のいずれも、ロシア産石炭購入を拡大するために必要な貨物船の確保という面で限界に達しているからだ。

ロシアにとって、欧州と日本が実際に輸入を全て打ち切った場合、今の石炭輸出をそのまま続けられるかが本当に問われることになる。しかしロシアがそうした試練を迎える時期は、当初想定されたよりも遅くなる公算が大きいように思われる。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)