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 海外発の長期金利上昇圧力が高まる中、日銀は必死で金利を抑え込んでいる。この金利抑制策に対して、「金利が上昇すると経済活動や財政資金調達に支障が生じるから、正しい対応だ」との見方がある。しかし政府の財政収支試算を見ると、物価が上昇した場合に金利が上昇するのはごく自然な姿であることが分かる。日銀の金融政策は「ナンセンス」なものと言えるだろう。ではなぜそう言えるのか、詳しく解説する。 

【詳細な図や写真】図:物価が上がるのに合わせて名目長期金利も上昇する(内閣府「中長期の経済財政に関する試算」より筆者作成)

●長期金利上昇で「不況になる」は本当か?  

 日本の長期金利に、強い上昇圧力が加わっている。世界のヘッジファンドは「日銀の金利抑制策は維持不可能」と読んで、国債先物の売り攻撃を仕掛けている。これに対して、日銀は必死に防戦しており、その結果、日銀の国債購入額が異常なレベルにまで膨張している。  

 日銀が長期金利上昇を認めないのは「仮に認めると、経済に悪影響が及ぶからだ」との見方がある。以下では、こうした見方が正しいかどうかを検討しよう。  

 「日銀が金利を上げると不況になる」という見方がある。これが妥当なものか否かを判断する重要な手がかりが、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(財政収支試算)にある。  

 2022年1月版の財政収支試算では、2031年度までの見通しを示している。財政だけでなく、経済全体についての指標(GDP、物価上昇率、金利など)を示している。  

 ここで示されている将来像が実現するかどうかは別問題として、整合のとれた経済諸変数を示していることは間違いないので、上記の問題を考えるための重要な参考になる。  

 しかも、この推計は政府のさまざまな長期推計の基礎になっている。たとえば、公的年金の財政検証や、「2040年を見据えた社会保障の長期見通し」などだ。これらでは、財政収支試算の2つの見通し(「成長実現ケース」と「ベースラインケース」)を基として、それを将来に延長するという手法が用いられている。  

 このように、長期見通しの出発点になっているという意味でも、重要なものだ。

●金利と経済の関係で超重要な「2つのポイント」  

 財政収支試算の2つの見通しに共通するのは、消費者物価上昇率が2020年度(-0.2%)、2021年度(-0.1%)の値よりは上昇し、それに対応して、名目長期金利も上昇することだ(図)。  

 「成長実現ケース」では、消費者物価上昇率が2026年度から2.0%になり、名目長期金利が2029年度に2.2%、2031年度に3.0%になる。「ベースラインケース」では、消費者物価上昇率が2025年度から0.7%になり、名目長期金利が2028年度に1.0%、2031年度に1.4%になる。  

 消費者物価の上昇率が本当にこのようになるかどうかは、わからない。ただし、仮にそれが実現したとすれば、その時に金利がどうなるかを示しているという意味で、この推計は重要だ。  

 特に重要なのは、次の2点だ。

・物価上昇率が上昇すれば、それに応じて名目金利も上昇すること。そうならなければ、実質金利が低下してしまって、経済に望ましくない影響を与える。

・「名目金利が上昇すれば、必ず経済成長率が落ち込むわけではない」ということ。  

 2025年度の成長率が、成長実現ケースの場合には3.2%、ベースラインケースでも1.7%だから、これまでの日本経済と比較すれば、むしろ成長率が高まった状況ということができる。  

 つまり、金利が上昇しても経済に悪影響があるとは言えない。むしろ、実質金利を一定に保つように名目金利が上昇するのが、自然な姿だ。

執筆:野口 悠紀雄