[フランクフルト 21日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は21日、2011年以来となる政策金利の引き上げを決定するとともに、市場安定化に向けた新たな債券買い入れ措置を承認した。

政策金利は0.5%ポイント引き上げた。記録的な物価高を受け、引き上げ幅は前回の理事会で示唆した0.25%ポイントの倍にした。

理事会後のラガルド総裁の記者会見での発言は以下の通り。

<歴史的瞬間>

私にとって歴史的な瞬間だ。理由は2つある。1つはチーム全体、つまり25人の理事がテーブルを囲み、今後の金融政策を適切に伝えるために重要とみなす伝達保護措置(TPI)について実際に完全に一致し支持したことであり、この点において、少なくともECB総裁の観点からは非常に喜ばしいと言える。

これはスタッフが膨大な量の業務をこなし、各国中銀の専門家を集めた委員会の全メンバーが、もちろんドイツ銀も含めて、本当に懸命に業務に当たり、無条件で見解に達したことを意味する。この点においても重要なことだ。

利上げは10年超ぶりであり、マイナス金利からの脱却は、インフレ抑制に向けてわれわれが何をしようとしているのかを欧州市民に理解してもらうための一助となる。

<中立金利とは>

現時点で中立(金利)の水準がどこかは分からないが、ここ数年間で変化してきたことは見てとれる。市場で見られるようにここ数週間でも大幅に調整されている。

<イタリアの現在の危機を受けイタリア債をTPIの購入対象にするのか>

政治的な問題は加盟各国の民主的なプロセスによるものであり、指摘されているように当該国の事例であることは確かだ。各国の金融市場の相違は正当な理由により生じる。そのため、当該国が適格基準を満たすかどうかは理事会が評価する。これは3段階の評価だ。まず市場や伝達に関する指標を総合的に評価し、次に適格基準を評価し、最後にTPIによる購入の発動がECBの主要目標に見合っているかを判断することが求められる。

<TPIは使用しないほうが良い>

理事会はTPIを使用しないほうが良いと考えているが、使う必要があれば躊躇しない。

<リセッション(景気後退)リスク>

6月時点の予測や委員会が先週公表した最新の予測を見る限り、基本シナリオでは今年も来年もリセッションに陥ることはない。ただ先行きは暗雲が漂っている。

<TPIの適格基準>

財政やマクロ経済など様々な基準があるが、全て理事会によって考慮される。TPIの適格基準については理事会が主権を持って決定する。

<大胆に行動>

TPIは特定の状況下で金融政策スタンスの伝達を促進し、強化することを意図している。ECBにはそのために大胆に行動する能力がある。

<TPI>

TPIは全てのユーロ圏諸国が直面しうる特定のリスクに対応するためのプログラムだ。そのため、全てのユーロ圏諸国が原則的にTPIの対象となる。ただし理事会による検討が条件となる。非常に具体的に明記された基準に基づいて理事会の裁量によって決定される。

買い入れに事前の制約はない。

ECBが誰かの人質になることはなく、自らの裁量で判断する。

<9月の判断>

9月に何が判断されるのかはデータ次第だが、中期的な2%の物価目標に到達するために正常化の道筋を歩むのは確かだ。

そのため、その時に得られるデータに基づき、われわれは中期的な2%目標を実現するために、われわれが行っている正常化の道筋の中でどのような措置を取るのかを決定する。

とはいえ、最終的な到着地点を変えるということではない。われわれは出口戦略を加速させ、われわれが旗を掲げた正常化への道筋を歩んでいく。

<ECBのフォワードガイダンスについて>

現行の複合的なフォワードガイダンスは9月にもう適用できない。今後はデータに依存して金融政策を決定する。月ごとに一歩一歩運営していく。

<50bp利上げについて>

われわれは議論し、メリットとデメリットを検討し、協議の最後には全ての理事メンバーが50bpというコンセンサスに結集した。

<50bp利上げの理由>

われわれは7月に25bpの利上げを堅持することのメリットとデメリットについて理事会内で議論した。これは9月に関してわれわれが提示した他のフォワードガイダンスを必然的に伴うもので、これら2つがパッケージであることは明らかだ。あらゆる点から見て、マイナス金利からの脱却に向けてより大きな一歩を踏み出すことが適切だと判断した。

これら2つの要素に加え、インフレ上振れリスクの実現性、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の下での柔軟な再投資の存在とその運用性、伝達保護措置(TPI=Transmission Protection Instrument)」に対する理事会の満場一致の支持を受け、今回の会合では示唆されていた以上の大幅な利上げを決定するに至った。

<物価目標への回帰>

今後、新たな混乱がなければ、エネルギーコストは安定し、供給のボトルネックは緩和されるはずだ。これは進行中の金融政策正常化とともに、インフレ率の目標回帰を支えるだろう。

<インフレ率に関する詳細>

インフレ見通しに対するリスクは依然として上向きであり、特に短期的に強まっている。

<インフレ率は好ましくないほど高水準>

価格が連鎖する中で、エネルギー価格および食品価格からの継続的な圧力とパイプラインからの圧力を背景にインフレは当面、好ましくないほど高水準にとどまると予想している。インフレ圧力の高まりはユーロの下落からも生じている。

<物価上昇圧力の広がり>

物価上昇圧力はより幅広い部門に広がっている。高エネルギーコストの間接的な影響が経済全体に及んでいることが一因だ。

<堅調な労働市場>

経済活動は、経済再開や堅調な労働市場、財政政策による支援から引き続き恩恵を受けている。とりわけ経済の全面的な再開は、サービス部門の支出を支えている。

<観光業は第3・四半期経済押し上げへ>

旅行の再開に伴い、観光業は第3・四半期に経済を支援する見通しだ。

<ボトルネックの緩和>

企業は依然としてコスト拡大やサプライチェーンの混乱に直面しているが、供給のボトルネックの一部が緩和されつつある兆候が存在する。

<見通しは不透明>

総じて2022年下期以降の見通しは極めて不透明。

<経済活動は減速>

経済活動は減速している。ロシアによる不当なウクライナ侵攻は継続的に成長の足かせとなっている。高インフレが購買力に与える影響や継続的な供給制約、不確実性の高まりが、経済にマイナスの影響を及ぼしている。