Giles Turner、Min Jeong Lee

  • 有力幹部の退社相次ぐ、権限は孫正義社長に一層集中へ
  • 孫氏はビジョンFからアームなど新たな機会に関心移す-関係者
Masayoshi Son, chairman and chief executive officer of SoftBank Group Corp. Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

ソフトバンクグループの上級幹部の退社がますます増えている。同社の先行きに暗さが増す中での展開だけに、創業者である孫正義社長の肩にかかる責任は重くなっている。

  同社のビジョン・ファンドからマネジングパートナーのヤニ・ピピリス氏とムニッシュ・バルマ氏の2人が退社するとブルームバーグ・ニュースは先週報じた。これで、世界最大の投資ファンドであるビジョン・ファンドを離れた幹部レベルの人材は2020年3月以降で少なくとも10人に上る。同ファンドを長年統括してきたラジーブ・ミスラ氏は主要な職務の大部分を退き、自身の投資ファンドを立ち上げる。

  これに先立ち、最高執行責任者(COO)を務めていたマルセロ・クラウレ氏は今年に入って同社を後にした。また、副社長兼チーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)を務めた佐護勝紀氏も昨年に退社。佐護氏はミスラ氏やクラウレ氏と共にソフトバンクGの取締役も務めていた。

  こうした人材流出を受け、同社の新たな方向性の策定では孫氏自らの裁量による部分が増えている。事情に詳しい複数の関係者によれば、孫氏はビジョン・ファンドでの多額の損失を踏まえ、英半導体設計会社アームなどの新たな機会に関心をシフトさせつつある。孫氏はアームの来年の株式上場に備え、魅力を高めるため経費削減などを通じて利益の向上を図る計画だと関係者は匿名条件に明らかにした。

  通信コングロマリットだった同社を5年前に投資持ち株会社に転換し始めて以来、孫氏は幹部のつなぎ留めるのに苦慮している。17年に1000億ドル(現行レートで約13兆3000億円)規模で当初のビジョン・ファンドを設立した際、ベンチャーキャピタル(VC)企業が通常パートナーに利益分配として取引案件ごとに支払っているような成功報酬(キャリー)の提供を控えた。同ファンドの近年の損失はそうした問題を悪化させ、優秀な人材を引きつけるほどの利益が残らない。

  MSTファイナンシャル・サービシズのシニア調査アナリスト、デービッド・ギブソン氏は「マサ(孫氏)が栄誉を独り占めし、チームの残りが得るのはパンくずだ」と話す。

  ソフトバンクGはコメントを控えた。

孫正義氏Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ただ、孫氏がソフトバンクGを世界最大のテクノロジー投資家に再構築して以降、誰にとってもあまり栄誉とは言えない状況にある。ウィーワークやグリーンシルなどの投資先企業の失敗に加え、テクノロジー株の幅広い値下がりでアリババグループやクーパンなどの保有株が打撃を受けた。

  最初のビジョン・ファンドではリミテットパートナーの今年3月末までの内部収益率(IRR)は11%で、投資データ会社プレキンによれば、業界平均は約38%。ビジョン・ファンド2のIRRは0%で、平均は45%。

  ソフトバンクG自体の株価も停滞しており、過去5年間の平均リターンは5.2%と、日経平均株価の9%やナスダックの16%を大幅に下回る。

  ソフトバンクGは8月8日に決算発表を予定している。

  日本企業の上級幹部の報酬は国際水準から見ると地味だが、金融業界の花形になれば世界最高レベルを得られる。VC企業はパートナーに利益の20%を分配するケースが多く、1人当たり数千万ドルの報酬もあり得る。

  孫氏自身の報酬は直近の年度で1億円で、これは約73万3000ドルに過ぎない。一方、ミスラ氏の報酬は開示されている最も新しい年度で840万ドルと、日本では最高額水準だ。それでも成功したベンチャー投資家にははるかに及ばない。

  同社の取締役も、優秀な人材をつなぎ留める取り組みが不十分だと指摘していた。

  VC企業ウォルデン・インターナショナルを創業したリップブー・タン氏は、ソフトバンクGの社外取締役を6月に退任する際の書簡に、「優れたベンチャーキャピタルの離職率が非常に低いのは、『レインメーカー』と呼ばれる有能なディールメーカーを確保することの重要性を理解しているからだ」と記した。

原題:SoftBank Talent Drain Worsens, Adding Pressure on Son to Deliver (抜粋)