伊藤純夫、藤岡徹

→金融政策は為替相場のコントロールを目標にしないとの考え方正しい
→新体制で物価目標含めて検証を、経済実態に合わせ目標の柔軟化も

日本銀行出身の翁百合日本総合研究所理事長は、現段階で日銀の金融政策の大胆な転換は難しいとし、長期間の大規模緩和の副作用も踏まえて徐々に正常化に取り組む必要があるとの見解を示した。2日にインタビューした。

  景気や市場への影響を考慮すると「今、政策をドラスティックに転換するのは難しい」と述べた。超低金利環境が長期化し、発行済み国債の約半分を日銀が保有する中、金融や財政面の副作用が懸念されるとも指摘。物価上昇を上回る賃上げの実現に伴う需要拡大を成長戦略で後押しし、「その帰すうを見ながら金融政策も少しずつ正常化していく」ことが重要と主張した。

翁百合氏Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  24年ぶりの1ドル=140円台まで進んだ急速な円安には「危機感を持つべきだ」としながらも、利上げにまい進する欧米の景気減速によって「円安基調が定着することはない」とみる。金融政策は為替相場のコントロールを目標にしないとの考え方は正しいとの認識も示した。

  資源価格高騰などを背景に世界的な高インフレが続き、米欧の中央銀行は利上げを急いでいる。一方、消費者物価は2%を超えて上昇基調にあるものの、日銀は現在の物価上昇が持続的ではないと金融緩和を継続する姿勢を鮮明にしている。日米金利差拡大が円安要因となっており、来年4月の黒田東彦総裁の任期満了もにらみ、市場では日銀の政策修正に対する思惑がくすぶり続けている。

共同声明も検証を

  翁氏は金融政策の正常化を前提に、2%の物価安定目標の在り方や大規模緩和の効果と副作用などを新体制できちんと評価・検証して「次のステップに入っていくことが必要だ」と指摘した。来春発足する新体制では、物価目標の在り方を含めて政策の再検証が必要になるとも語った。

  2%物価目標は現在の賃金上昇率や潜在成長率を考えるとやや高いとし、「インフレ目標自体の位置付けを経済実態に合わせてもっと柔軟なものに変えていく必要がある」とみる。人々の期待に働き掛けて早期の達成を目指すやり方はうまくいかなかったとし、「日本の潜在成長率を上げていきながら達成していくという議論が重要」と述べた。

  「本来は金融政策で時間を買っている間に、しっかり成長戦略をやることが求められていた」という。「本質的に大事なのは付加価値生産性の向上だ」とした上で、成長力を高める政府の取り組みを促す観点から、政府と日銀の共同声明についても検証が必要との認識を示した。