[北京 24日 ロイター] – 中国共産党が23日に発表した新指導部は、習近平総書記(国家主席)の側近で固めた顔ぶれとなり、金融市場の動揺を招いた。新たに中央政治局常務委員に選ばれ、来年3月の首相就任がほぼ確実となった李強・上海市党委員会書記は「ゼロコロナ」政策で傷ついた経済を立て直すため、景気刺激策を強化する以外の選択肢が無いとみられている。

共産党は習氏の3期目続投を正式決定。首相には現在の李克強氏に代わり、李強氏が就任する見通しとなった。

習氏はかつてないほど「安全」に重点を置いている。そうした中、経済を成長させることにより、社会の安定を脅かしかねない失業のまん延を防ぐ仕事は、李強氏が担うことになる。

新型コロナウイルスを封じ込めるゼロコロナ政策と不動産危機の深刻化により、中国経済は減速。共産党が経済への統制を強めているため、改革の期待も遠のいた。

新たな政治局常務委員の顔ぶれが発表されると、習氏が成長を犠牲にして思想に基づく政策を一層推し進めるとの懸念が広がり、週明け24日に香港株は急落、中国株と人民元も下げた。

ある政策筋は、匿名を条件に「新型コロナ感染抑制策が近く大幅に緩和されることはなく、不動産セクターが短期的に持ち直すこともないだろう。改革派は完全に排除され、投資家の信頼感は傷ついた」と述べた。

その上で「新たな経済チームは来年、経済を支えるために投資と大型プロジェクトに焦点を絞った大規模な景気刺激策に打って出るしかないだろう」と述べた。

米国で学んだ経済学者で、改革のブレーンだったとされる劉鶴・副首相も、やはり習氏の取り巻きである何立峰氏と交代する。

改革派である中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は、来年迎える退職年齢をもって退く可能性が高まった。

李強氏は上海市での2カ月間にわたるロックダウンなどの新型コロナ対策で批判を浴びた上、国政レベルで経済政策に携わった経験を持たないだけに、今回の昇格は多くの政策関係者を驚かせた。

かつて政府財政部のシンクタンクを率い、現在は華夏新供給経済学研究院を運営するジャー・カン氏は「喫緊の課題は経済再生だ。われわれは期待と信頼感の低下という問題に直面しており、経済を活性化できなければ何を言っても虚しい」と指摘した。

<経済課題が山積>

習氏は長年、2050年までに中国を世界の超大国にするという目標を掲げてきた。しかし、市場改革を犠牲にした国家主導の経済モデルを推進することで、目標達成が脅かされかねないと政策関係者やアナリストはみている。

習氏の新指導部発表後、シティのアナリストはリポートで「地政学的リスクが強まる中で国家安全保障の優先度を空前のレベルまで高めたことで、今後数年間は経済発展と安全保障のバランスをどう取るかが指導部にとって最重要課題の1つになるかもしれない」との見方を示した。

投資家は今後の重要政治課題を見極めるため、今年12月に予定される中央政治局会議と中央経済工作会議に注目するだろう。

中国都市部の失業率は9月、わずかに上昇して5.5%と、6月以来で最高となった。ゼロコロナ政策が事業を圧迫したためで、16歳から24歳の求職者の失業率は17.9%に達した。

中国は2022年の成長率目標を約5.5%としているが、最新のロイター調査では、実際の成長率は3.2%にとどまる見通しだ。来年は、比較対象の今年の数字が低いため5.0%成長に加速すると予想されている。

習氏が政治局常務委員に汪洋・人民政治協商会議主席などの改革派を一部残すと期待していた投資家は、発表された顔ぶれを見て失望した。

RBCキャピタル・マーケッツ(シンガポール)のアジアFXストラテジー責任者、アルビン・タン氏は「新指導部が今後の国家および経済の運営方法をめぐり、習近平氏自身の見解に一層敬意を払うようになりそうだ」と述べた。

(Kevin Yao記者)