[ロンドン 17日 ロイター] – 英国のハント財務相は17日、一連の増税と歳出削減を柱とする総額550億ポンド規模の財政再建計画を発表した。トラス前政権下で失った英国の財政への信頼感を取り戻すために必要な措置と表明した。

財政再建計画のほぼ半分は増税によるもの。ハント氏は、より多くの国民の基本税と所得税税率が引き上げると表明。最高税率(45%)が適用される年収水準を12万5000ポンドに引き下げるほか、配当収入に対する非課税枠を縮小する。

また、雇用主が社会保障費を負担する基準を2028年まで凍結し、企業の負担を増加させるほか、石油・ガス会社に対する課税は2028年まで一時的に25%から35%に引き上げられ、原子力・風力発電会社も同様に45%の課税が行われる。エネルギー会社の利益に対する課税引き上げで来年は合計で約150億ポンドが徴収されるという。

ただ、事前の懸念よりも税負担が小さいとして、再生可能エネルギー発電を手掛けるSSEとドラックスの株価はそれぞれ1.5%、5.4%上昇。英電力・ガス大手セントリカも5.4%高となった。

公共支出については、伸びは経済成長よりも低くなるとしながらも、全般的には次第に増加するとの見方を示した。

ハント氏は、最近落ち着きを取り戻した英金融市場を維持するためには、次の国政選挙が予想される2024年以降まで再建計画の大部分がずれ込むとしても、痛みを伴う財政措置が必要と強調。「信頼性を当然と捉えることはできず、前日発表されたインフレ指標は財政再建への重要なコミットメントを含め、インフレ抑制に向けた容赦ない戦いを続けなければならないことを示している」と述べた。

英国立統計局(ONS)が16日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年比上昇率が11.1%と、9月の10.1%を上回り41年ぶりの高水準となった。

<23年マイナス成長予想>

独立財政監視機関である予算責任局(OBR)は、物価上昇で家計の可処分所得は今会計年度で4.3%、23/24会計年度で2.8%減少し、1950年代以降で最大の落ち込みになると予想。2024年4月までに生活水準は7%低下し、22年までの8年間に達成された伸びが帳消しになるとした。

5年間の展望期間の終わりには税負担は国内総生産(GDP)の37.1%に達し、第二次世界大戦以来最も高い水準になるとの見方を示した。19/20年度の税負担のGDPに対する比率は33.1%だった。

OBRは英経済は23年に1.4%のマイナス成長に陥ると予測。3月時点では1.8%のプラス成長になるとしていた。24年は1.3%、25年は2.6%と、それぞれプラス成長になるとの見方を示した。従来予測は24年が2.1%、25年が1.8%だった。

インフレ率については、22年は9.1%と、3月時点の7.4%から上方修正。23年は7.4%になるとの見方を示した。

英国は主要7カ国(G7)の中で唯一、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)以前の経済規模を回復していない。

ハント氏は英経済はすでにリセション(景気後退)入りしているとの認識を示し、OBRの予測について「世界的な向かい風により英経済が受けている影響を明確に示している」と述べた。

ハーグリーブス・ランズダウンのシニアマーケットアナリスト、スザンナ・ストリーター氏は「英経済の長期健全性を巡る懸念は払しょくされていない」と指摘。シンクタンク・財政研究所(IFS)のポール・ジョンソン氏は、英国は今後2年間は大きな支出削減を免れ、増税も短期的には制限されると見られるものの、本当の痛手は24年の選挙後に感じられるとの見方を示した。

ハント氏の発表を受け、英ポンドは1640GMT(日本時間18日午前1時40分)時点で対ドルで1.1%、対ユーロで0.5%、それぞれ下落した。

格付け会社ムーディーズのシニアクレジットオフィサー、エバン・ウォールマン氏は、ハント氏の計画は財政再建に向けた「さらなる一歩」としたものの、「国内の政治環境が分裂し、政策の予測不可能性が高まっているため、財政再建への取り組みが損なわれる可能性がある」とした。