[北京/ニューヨーク 8日 ロイター] – 中国政府は新型コロナウイルス対策の大幅な緩和に踏み切り、来年に景気を回復させると約束している。しかし、本格的な回復局面が訪れる前に、新規感染者が急増して短期的に成長を下押しする公算が大きい、というのがエコノミストの見立てだ。
既に旅行や他のサービスに対する需要復活の兆しは見えているが、中国は医療体制が脆弱でワクチン接種率も低いため、新規感染者の大幅拡大への備えが十分と言えず、人手不足の拡大や消費者のさらなる委縮を招きかねない。
何人かのエコノミストは来年序盤の中国の成長率予想を引き下げ、過去50年間で最悪の部類だった今年の成長軌道が当面続くとみている。
また、中国経済の回復について長期的なトレンドにおける信頼感は維持されているとはいえ、経済活動が再開されれば、もう1つの問題も発生する恐れが出てくる。それは、他の主要国が苦しんでいる中で、これまで中国だけは落ち着いていたインフレだ。
華宝信託の上海を拠点とするエコノミスト、ニー・ウェン氏は「先進各国と比べて中国の医療資源は幾分足りない」と指摘。来年第1・四半期の中国成長率見通しを従来の5%から3.5─4%に下方修正した。特に人々の移動が活発化する春節(旧正月)休み期間に感染が急拡大するリスクがあるとの見方を示した。
今年の経済成長は、不動産市場の落ち込みや世界的な景気減速の影響だけでなく、新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策に足を引っ張られた面が強い。
ロックダウン(都市封鎖)やさまざまな隔離措置がサプライチェーン(供給網)の混乱を招き、消費に冷や水を浴びせて最終的には国内全土に抗議行動が広がり、事実上の政策転換を迫られる形になった。
1─9月時点の成長率はわずか3%。ただ、複数の政府アドバイザーが先月ロイターに語ったところでは、当局は来週の中央経済工作会議で来年の成長率目標を4.5─5.5%とするよう提言する見通し。人民銀行(中央銀行)アドバイザーの1人も先月、成長率目標は5%を下回らないようにすべきだと発言した。
<コロナ規制、来年前半の成長率押し下げ>
いずれもしても新型コロナウイルス対策の緩和で新規感染者の増加が想定される以上、経済活動再開がもたらす恩恵が顕在化する時期は相当、後ズレするだろう。
モルガン・スタンレーは「経済活動再開の時間軸が前倒しされた分、短期的には成長率がすう勢を下回って推移すると考えている」と述べた。12月8日、中国政府は新型コロナウイルス対策の大幅な緩和に踏み切り、来年に景気を回復させると約束している。
同行アナリストチームのシナリオでは、来年春の段階で成長率は緩やかに持ち直すが依然としてすう勢以下にとどまり、年後半になると回復がより本格化して年間で5%成長に達するという。
HSBCはもう少し楽観的で、来年の成長率は5%を超える、との見通しを調査ノートに記した。新型コロナウイルス対策の緩和に加え、財政・金融政策の後押しを見込んでいるためだ。
経済活動が再開されれば経済成長への追い風は強まる、という点では市場関係者の自信は揺るがない。
マーサーのグローバル最高投資ストラテジスト、リック・ニュザム氏は「ロックダウンは人々が移動も消費も仕事もできないことを意味する。人情を欠く言い方になるが、国内総生産(GDP)への悪影響は新型コロナウイルスを封じ込めないことよりも、ロックダウンの方がずっと大きい」と話した。
<中国に周回遅れのインフレリスク>
それでも経済活動再開は、インフレという副作用を伴う可能性がある。これは中国経済だけでなく、世界経済にまで影を落としかねない。
ジョーンズ・ラング・ラサールのチーフエコノミスト、ブルース・パン氏は、避けがたい感染の「出口の波」が起きる中で経済活動を再開すれば需要が急増し、とりわけ家計消費が加速して短期的には労働供給や生産、サプライチェーンがかく乱されるので、中国もインフレを巡る諸問題を突きつけられると分析した。
イーストスプリング・インベストメンツはリポートで、こうした状況は米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする主要中銀が、展開中のインフレとの闘いにも影響を与えるかもしれないと警告した。
「混乱を伴う経済活動再開と物価上昇は、中国にとって重大なリスクになる。一方で、もう1つのインフレ主導役のエネルギー高は中国の経済活動再開で拍車がかかり、各国中銀のインフレとの闘いを長引かせてもおかしくない」と分析している。
(Ellen Zhang記者、Liangping Gao記者、Carolina Mandl記者)