[ロンドン 6日 トムソン・ロイター財団] – 英国の入国者収容所に2年間拘留されていたミミさんは、どうしても解放されたくて足首に電子タグを着けることに同意した。だが、自由を味わえたのはつかの間だった。 

2カ月後、ミミさんは電子タグを通じて監視されるストレスに耐えきれず、自殺未遂を犯した。

「このタグを見られたくないから、何もできない。恐ろしい」──。そしてある日、ストレスが限界を超えた。

40代のミミさんは、両親が第2次世界大戦後にカリブ諸島から英国に移住したと信じているが、自らの国籍を証明できず、公式には無国籍状態。現在、英国に亡命を申請中で、決定が下されるのは約10年後だという。

「自分の出自については何も知らない。ひどく小さい頃、性的搾取と近代版奴隷制の中で棄てられた」と、トムソン・ロイター財団のビデオインタビューで語った。

英入国者収容所に拘留されている人々に無料で法的代理を提供している団体の「収容入国者保釈」の幹部、ルディー・シュルカインド氏は、電子タグを装着した人々は「信じられないほど尊厳を傷つけられ、らく印を押された気持ちになる」と説明。「街を歩くとタグを着けているのを見られ、危険な、あるいは暴力的な人間だと思われる。考えられないほどつらいことだ」と話した。

英政府は移民削減という長年の約束を果たすべく、在留資格を巡って拘留された人々への電子タグ装着を近年強化している。移民問題は、2016年の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利する決め手ともなった。

今年はウクライナ、アフガニスタン、香港から逃れてきた人々や留学生が急増し、移住者数は過去最高の50万4000人に達した。この数字には英仏海峡を小型ボートで渡ってくる人々は含まれていないが、そうした人々も急増している。

<非人間的>

戦争や貧困、自然災害などで母国を逃れる人は、世界中で記録的な数に達し、各国政府は国境管理強化に足首タグや生体認証データなどのデジタル技術を活用するようになっている。

英国では2016年、移民反対の声に押され、国外退去を命じられた外国籍の人全員についてタグ装着を義務化。人権団体は、非人間的でプライバシーの侵害だと批判している。

電子タグは元々、犯罪歴のある人々の監視に用いられていた。

今年施行された「国籍・国境法」により、入国許可を持たないと知りながら英国に到着した人々は、最長4年間収容されることになった。

移民向け慈善団体「ケア・4・カレー」の創設者、クレア・モスリー氏は「わが国政府はここ数年間、難民は不法移民だ、不法に到着した、犯罪者として扱われるべきだ、と繰り返すばかりだ」と批判。 「これらの人々の多くは戦争と迫害による無実の犠牲者だ」と訴えた。

<GPS>

昨年8月、収容所当局は電子タグを介した衛星利用測位システム(GPS)による監視対象を、入国者収容所から保釈された人々にも広げた。英国在住申請の審査結果が出るまで収容所から解放されている人々だ。

この結果、保釈中で電子タグを着けた人の数は今年1月から9月にかけてほぼ倍増し、2100人を超えた。これは電子タグを着けて監視されている全ての人の16%に当たる。最新の政府データで明らかになった。

入国管理制度の改善を求める団体「移民の厚生のための共同会議」の幹部、ゼーラー・ハサン氏は「人々は入国者収容所に拘留される恐怖ゆえに、この非常に厳しく煩わしい状況を受け入れるよう強制されているようなものだ」と言う。英国の入国者収容所は刑務所に似た場所で、毎年約2万5000人がここを通過している。

英内務省は昨年、人が自宅にいる時に場所を記録する無線周波数のタグから、常に居場所を追跡するGPS対応のタグに切り替えた。

内務省はロイターの問い合わせに対し、こうした方法が用いられるのは、法に違反し国外退去を待っている外国籍の人々だけであり、逃亡しないよう監視しているとする電子メールのコメントを寄せた。

だが、活動団体「ミグランツ・オーガナイズ」のブライアン・ディコフ氏が情報公開請求を行ったところ、入国者収容所からの保釈中に逃亡した人の割合は2019年が3%、20年が1%に過ぎないことが分かった。

前出のシュルカインド氏は「この人々は何も害を加えないし、逃亡もしていない。従ってタグを着けさせる必要はなさそうだ。逃亡すれば亡命申請が台無しになるので連絡を取り続け、逃げ出したりしない」と語った。

今年は英仏海峡を小型ボートで渡るという危険な入国方法を試みる人の数が急増し、政府はその対処も迫られている。内務省は6月、こうしたルートで到着した人々にも電子タグを装着させる1年間の試験制度を開始した。

(Lin Taylor記者)