坂口茉莉子

[東京 23日 ロイター] – 「日銀ショック」を受けて、外為市場関係者のドル/円見通しが揺れている。市場の不意をつくかたちとなった日銀の政策修正を金融政策の正常化への第一歩とみれば、来年も円高継続との見方になるが、米国のインフレが落ち着けば、日銀は利上げを急がず、円高圧力も強まりにくい。世界景気や日本の賃金・物価動向などに不透明感が強まる中で、予想が二分している。 

<年末に急激な円高進行>

ステート・ストリート銀行の東京支店・共同支店長、若林徳広氏は、来年は海外主要中銀による利上げ停止が視界に入る一方、日銀による金融政策の一段の修正観測が高まりやすく、ドル/円は円高方向に敏感に反応しやすくなるとの見方を示す。

2022年は歴史的な円安が進んだ。年初115円前半だったドル/円は、日米金融政策の方向性の違いや日本の貿易赤字などを材料に10月21日に151.94円と1990年以来32年ぶりのドル高・円安水準を付けた。その後は、米国の利上げ停止観測が強まる中で下落傾向に転じた。

その円高の動きに拍車をかけたのが、20日の「日銀ショック」だ。日銀は10年物国債金利の許容変動幅拡大を決定。国債買い入れの増額など緩和方向の施策も打ち出したが、市場では「事実上の利上げ」との受け止めも多く、ドルは130.58円まで下落した。

「ショックの余韻が続いている。金利動向も見極めなければならず機関投資家は動けない状況」とある銀行関係者は話す。

<ポジション巻き戻しが拍車>

足元の円高はポジションの揺り戻しの影響も出ているとみられている。クロス円では円ショートのポジションが溜まっていたほか、景気後退懸念から英ポンドやユーロは売られやすい状況だった。

SBI証券の外国為替室部長、上田眞理人氏は「どの通貨ペアをみても、円を積極的に売るという選択肢がなくなった」と指摘。今年は行き過ぎた一方向のドル高が進んだこともあり、ドルを買い戻す動きも鈍く1ドル140円に戻るのは難しいと予想している。

急激な円高で含み損状態になった個人投資家のドル/円の戻り売りも待ち受ける。「個人投資家は(やむをえず保有している)塩漬け状態。ドルが上昇したタイミングで持ち高を整理しているものの、ドルが再び下落すればストップロスや強制的にロスカットさせる可能性がある」(国内証券)という。

クレディ・アグリコル銀行の資本市場本部シニア・アドバイザー、斎藤裕司氏は、日銀の政策修正期待が強まれば、「次は61.8%戻しの128.10円が視野に入ってくる」と指摘。また、同銀行の調査部によるモデル試算では、125円程度まで下落する可能性がある。

<根強い円安予想>

一方で、来年の円安予想も根強い。ゴールドマン・サックス証券のチーフエコノミスト、馬場直彦氏は、米国のターミナルレートは5%強で、米10年債利回りのピークは年後半に4.25%と想定。「日銀が長期金利の変動幅を拡大しても、ドル高/円安は再び進行し、140円を超えるような水準へ到達する可能性がある」との見方を示す。

三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏は、成長率が脆弱な国において、日銀が事実上の利上げに動いたため、スタグフレーション懸念が強まり、円は売られやすいと指摘。「1ドル160円まで上昇する可能性がある」という。

11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)が前年比3.7%と40年11カ月ぶりの伸びとなるなど、足元で物価高傾向は強まっているが、来年に入れば、インフレ圧力は弱まるとの予想も多い。

あおぞら銀行のチーフ・マーケット・ストラテジスト、諸我晃氏は、日本のインフレ率が2%を維持できなければ、さらなる日銀の政策修正観測は剥落し、その後は米景気動向がテーマとなるとみる。

ニッセイ基礎研究所の上席エコノミスト、上野剛志氏は、来年前半は金融引き締めによる欧米の景気後退が懸念されるほか、新型コロナ感染拡大が続く中国の経済再開は予想しにくいと指摘。日銀が大幅な緩和修正に踏み切るのは難しく、円安も一巡する中でコストプッシュ型のインフレは収まり、日銀への風当たりも弱まっていくとみている。

(坂口茉莉子 取材協力:基太村真司 編集:伊賀大記)