[上海 18日 ロイター] – 中国で新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が解除されてから迎えた最初の週末。上海のある小さなライブハウスで開催されたヘビーメタルバンドのコンサートでは、薄暗い中で数十人に上る観客の若者がひしめき合い、汗や強い酒のにおいが漂っていた。 

これこそが、昨年11月終盤に中国全土へと波及したゼロコロナに対する抗議行動で若者たちが求めていた自由の一端だ。抗議行動はまたたく間に拡大し、習近平国家主席が権力を掌握して以降、10年間で国民の怒りが最も大規模に表面化する事態になった。

中国で1995年から2010年までに生まれた2億8000万人の「Z世代」は、3年にわたるロックダウン(都市封鎖)や検査、経済的苦境、孤立といった試練を経て、新しい政治的な意見の表明方法を発見し、共産党のお先棒をかついでネットに愛国主義的な書き込みするか、そうでなければ政治的には無関心、という従来のレッテルを貼られることを否定しつつある。

一方、指導者として異例の3期目に入ったばかりの習氏は、過去最悪に近い失業率と約50年ぶりの低成長に直面するZ世代を安心させる必要があるものの、それは難しい課題となっている。

なぜなら、若者の生活水準を改善することと、これまで中国を発展させてきた輸出主導型の経済モデルを維持することは、社会の安定を最優先とする共産党と政府に対し、本来的な矛盾を突き付けるからだ。

各種調査によると、Z世代は中国におけるどの年齢層よりも将来に対して悲観的になっている。そして、何人かの専門家は、抗議行動を通じてゼロコロナの解除早期化に成功したとはいえ、若者が自分たちの生活水準改善を実現する上でのハードルは今後高くなっていく、と警告する。

精華大学元講師で今は独立系の評論家として活動しているウー・キアン氏は「若者がこれから進める道はどんどん狭く、険しくなっているので、彼らの将来への希望は消えてしまっている」と指摘。若者はもはや、中国の指導者に対する「盲目的な信頼と称賛の気持ち」を持ち合わせていないと付け加えた。

実際、ロイターの取材に応じた若者の間からは、不満の声が聞こえてくる。先の上海のコンサートにやってきたアレックスと名乗った26歳の女性は「もし指導部が(ゼロコロナ)政策を変更しなければ、より多くの人民が抗議に動いただろう。だから、結局は軌道修正するしかなかった。若者が中国で悪いことなど絶対に起きないという考えに戻ることはないと思う」と述べた。

<寝そべり族>

特に都市部の若者が抗議活動の先頭に立つのは、世界的な傾向と言える。中国でも1989年の天安門事件につながった最大の民主化運動を指導したのは学生たちだ。

ただ、複数の専門家は、中国のZ世代が習氏にジレンマを与えるような特徴を備えていると分析する。

近年では、中国のソーシャルメディアを利用している若者が、ゼロコロナを含めた同国の政策に批判的な意見に激しくかみつく様子が国際社会の注目を集めてきた。

彼らは、愛国主義的なウェブサイトの背景色にちなんで「小粉紅(little pinks)」と呼ばれるようになり、中国政府が展開する「戦狼外交」や、毛沢東時代に文化大革命の推進役となった紅衛兵に比すべき存在とみなされている。

ところが、パンデミック発生以降、各種規制の下で経済が減速するとともに、そうした猛烈な姿勢のアンチテーゼ的な動きが出現した。ただし、それは西側諸国のようにナショナリズムの台頭に反対するリベラル派とは異なる。多くの中国の若者が選択しているのは「躺平(何もしないで寝そべること)」で、「社畜」としてあくせく働くことを否定し、手に入る物で満足するという生き方だ。

本当のところ、こうした生き方に傾いている若者が、どれくらい存在するのかを示すデータは見当たらない。しかし、ゼロコロナへの抗議の前に水面下で醸成されていた要素はただ1つ。つまり彼らが予想する経済的な将来に対する納得いかない気持ちだ。

コンサルティング会社のオリバー・ワイマンが昨年10月に実施し、12月に公表した中国の4000人を対象に行った調査に基づくと、Z世代はどの年齢層にも増して中国経済の先行きを悲観している。彼らの62%は雇用に不安を抱え、56%は生活が良くならないのではないかと考えている。

これに対して10月に公表されたマッキンゼーの調査を見ると、米国のZ世代は25歳―34歳を除く他のどの世代よりも、将来の経済的機会に明るい展望を持っていることが分かる。

中国でも習政権の始まりのころは、若者の見通しはもっと楽観的だった。

2015年のピュー・リサーチ・センターによる調査では、1980年代終盤に生まれた人の7割は経済環境に肯定的な見方をしており、96%が親世代よりも生活水準が上がったと回答していた。

中国の若者のトレンドを調査している企業の創設者、ザク・ディヒトワルド氏はZ世代について「学習による悲観論だ。これは彼らが目にしてきた事実や現実を根拠にしている」と解説。ゼロコロナに対する抗議は10年前なら起こらなかっただろうが、今の若者たちは上の世代が行使しなかった手法で、自らの声を届ける必要があると信じていると述べた。

ディヒトワルド氏は、近いうちにさらなる社会的騒乱が発生する公算は乏しいとしつつも、共産党は今年3月の全国人民代表大会(全人代)で若者に「何らかの希望と方向」を提示することを迫られていると主張。そうした解決策を打ち出せないと、長期的には抗議の動きが再び活発化する可能性があるとみている。

<難しい政策対応>

習氏は年頭の演説で、若者の将来を改善することが不可欠だと認め「若者が豊かにならない限り、国家は繁栄しない」と言い切ったが、具体的な政策対応には言及していない。

何よりも社会の安定を専一に思っている共産党が、Z世代により大きな政治活動の余地を提供するとは考えられない。

その代わりに当局は、若者のために高給の仕事を創出し、彼らが親世代と同じように経済的に繁栄する道筋を確保しなければならない、と専門家は話す。

とはいえ、経済成長が鈍化する状況でその実現は難しくなる一方だ。しかも、政治アナリストやエコノミストによると、若者の生活水準を引き上げるための幾つかの政策は、過去20年間にわたって中国経済を15倍に拡大させる原動力となったエンジンを維持する、という別の優先項目とは相いれない。

例えば、Z世代に賃金が上がると期待させると、中国の輸出競争力は低下する。住宅価格をより手ごろな水準に下げれば、近年は経済活動全体の25%を占めてきた住宅セクターが崩壊しかねない。

習氏が2期目にハイテクや他の民間セクターに対する締め付けを強化したことも、若者の失業や就職機会の減少を招いた。

カリフォルニア大学バークレー校の都市社会学者、ファン・シュー氏は、中国政府がいくら「共同富裕」を唱えてもZ世代のために格差を解消するのは、事実上不可能だと言い切る。

シュー氏によると、彼らの親は住宅市場や起業を通じてばく大な富を築くことができたが、そうした面での資産形成は再現されそうにないと強調。格差をなくすとは不動産価格を押し下げて若者が住宅を購入できるようにするという意味で、これは上の世代に大打撃を与えると述べた。

<国外に希望>

こうした中で一部の若者は、中国国外に夢や希望を追い求めつつある。

大学生のデンさん(19)はロイターに、もう国内で豊かさを手に入れる余地はほとんどないと語り「中国で暮らし続ければ選択肢は2つ。上海で平均的な事務仕事に就くか、親の言うことを聞いて故郷に戻って公務員試験を受け、向上心もなく無為に過ごすかだ」と明かした。彼女はどちらの道も嫌って移住する計画だ。

バイドゥ(百度)のデータによると、上海で2500万人の市民が2カ月間ロックダウンを強いられた昨年の海外留学の検索数は2021年平均の5倍に達した。11月のゼロコロナ抗議騒動の期間も、同じように検索数が跳ね上がった。

アレックスさんは「中国の体制を受け入れるか、いやなら出ていくしかない。当局の力はあまりにも強く、体制を変えることはできない」と達観している。

(Casey Hal記者、Josh Horwitz記者、Yew Lun Tian記者)