[ラゴス 17日 トムソン・ロイター財団] – ハリウッドスターのイドリス・エルバさんとマシュー・マコノヒーさんが、来月のナイジェリア大統領選候補者の1人を支持する動画を「TikTok(ティックトック)」で目にした時、ファクトチェック(事実確認)の仕事に携わるケミ・ブサリ氏はすぐにフェイク動画だと分かった。
「ばればれだ。でも信じ込んでしまう人もいる」。ブサリ氏が編集長を務めるウェブサイト「ドゥバワ」は昨年11月にこの動画のファクトチェックを行い、すぐに幾つかのソーシャルメディア・プラットフォームから削除させた。
2月25日の大統領選を控えてインターネット上では偽情報が増えており、中には特定しにくいものもある。主要ニュースサイトで繰り返し流され、有権者の間に不信感を植え付けてしまうこともある。
政治に関する活動団体「センター・フォー・デモクラシー・アンド・デベロップメント」のディレクター、イダヤット・ハッサン氏は「従来型メディアがソーシャルメディア上の偽情報にひっかかってしまうとしたら、(真偽の)境界がぼやけていることを憂慮しなければならない」と語った。
11月には、ナイジェリア選挙委員会がある候補者の犯罪捜査に踏み出したとする偽の声明が拡散されて複数の主要メディアがそのまま報じ、同委員会が情報を否定する事態に発展した。
その2カ月前には、ガーナの大統領があるナイジェリア大統領候補者に政敵に道を譲るよう助言した、というフェイスブックの投稿があり、大統領が自身の投稿ではないと表明した。
ナイジェリアの学生、セグン・アデニランさん(24)は、州知事が難民キャンプで有権者の本人確認証を買っているというTikTok動画を見て絶対に本物だと思ったと言う。偽情報だと気付いたのは、1月に虚偽を暴く記事を読んだ時だ。
「ここまで来ると、もう何を信じて良いのか分からない」
<IT大手の対応>
ハッサン氏によると、フェイクニュースを流す人々は「より巧妙になり、組織化されてきている」。複数のソーシャルメディアに矢継ぎ早に情報を流すことで、なるべく多くの人の目に触れることを狙うようになったという。
「フェイスブック投稿のスクリーンショットを撮ってツイッターに載せ、それが何度も閲覧されて次はワッツアップで拡散される」といった具合で、有権者は不確かな情報に基づいて投票してしまう恐れがあるとハッサン氏は指摘した。
ナイジェリアでは人口2億1600万人の半分以上がネットを利用しており、アフリカで最もソーシャルメディアのユーザーが多い。データ分析会社データリポータルによると、動画投稿サイト「ユーチューブ」の利用者は約3300万人、フェイスブックは2600万人余りに上る。
フェイスブックやメッセージアプリのワッツアップを所有する米メタ・プラットフォームズ、ユーチューブを傘下に収めるグーグルなどのIT大手は、選挙絡みの偽情報を減らすための資源を追加投入すると約束している。
しかし人権団体やファクトチェック組織は、こうした企業の取り組みが不十分だと言う。
ブサリ氏は、フェイスブックは問題提起されたコンテンツを速やかに調査してくれることが多いと説明。しかし選挙期間中にファクトチェック組織が政治家の怪しい投稿に対処することは同社の規約によって阻まれているため、フェイクニュースを撲滅できないと話す。
<ツイッターの人員削減に懸念>
ソーシャルメディア・プラットフォームは選挙関連の偽情報への対処を怠っているとして世界中で厳しい目にさらされている。
中でも実業家のイーロン・マスク氏が買収したツイッターは、偽情報の拡散と乱用を防ぐチームを含めて人員を半分に削減して以来、強い批判を浴びている。アフリカで唯一事務所があるガーナでは従業員をほぼ全員解雇した。
ブサリ氏によると、自身のサイトを含むナイジェリアの3つのファクトチェック組織と英国のツイッター幹部は11月にオンライン会議を開き、選挙関連の偽情報について話し合った。ツイッター側からは、ファクトチェック組織が見つけた偽情報をツイッターに報告するためのスプレッドシートを作成した、との説明があったという。
トムソン・ロイター財団はツイッターにコメントを要請したが、今のところ回答はない。
ハッサン氏は「ナイジェリアの選挙を専門に監視するチームがツイッターに無いことは、厳しい状況を生むだろう。アフリカでは他にも複数の選挙が控えている」と語った。
(Bukola Adebayo記者)