[東京 10日 ロイター] – 政府は10日、日銀新総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めた。14日に人事案を国会に提示し、衆参両院の同意を得て内閣が正式に任命する。政府筋3人が明らかにした。
新総裁の任期は5年で、4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁の後任となる。
総裁ポストには旧大蔵省を含め財務省と日銀出身者の「たすき掛け」が続いてきたが、両母体以外からの総裁就任は最近では珍しい。民間からの起用は1964年から69年まで総裁を務めた宇佐美洵(まこと)氏以来となる。
複数の関係者によると、副総裁には内田真一理事と氷見野良三前金融庁長官を起用する方針。日本経済新聞によると、政府は、黒田氏の後任総裁として雨宮正佳副総裁に当初打診したが、同氏は辞退した。
後任候補の選定に先立ち、自民党の高木毅国対委員長は、立憲民主党の安住淳国対委員長との会談で、14日の衆院議院運営委員会理事会に国会同意人事案を提示すると伝えた。提示後に正副総裁候補の所信を聴取し、近く内閣が任命する段取りを描く。
日銀総裁人事を巡る報道を受け、長期金利の指標10年債利回りは日銀が上限とする0.5%に上昇した。長期金利が0.5%台となるのは1月18日以来、約3週間ぶり。
植田氏は10日、政府から総裁候補の打診があったかどうかは「ノーコメント」と断ったうえで、現在の金融政策運営について「適切であると考えている」と都内で記者団に語った。現状では「金融緩和の継続が必要」との考えも併せて述べた。
一方、岸田文雄首相は日銀正副総裁の人事について「14日の国会への提示に向けて今、調整中だ」と述べるにとどめた。
<ゼロ金利解除に反対>
植田氏は1998年から2005年に日銀審議委員を務めた。2000年8月の金融政策決定会合では「デフレ懸念の払しょくが展望できる」として99年2月から続けたゼロ金利政策解除に、中原伸之委員(当時)とともに反対の立場を表明していた。
日銀議事要旨によると、速水優総裁(同)ら7人がゼロ金利解除に賛成したが、植田、中原両委員は採決で反対票を投じた。
2002年には日銀による株保有を巡って「中央銀行は株を買うということが絶対ありえないことではない」と発言。株価が経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)に沿った水準から乖離していれば「考慮しても良い」と理解を示した。
元日銀幹部からは「ロジカルに考える方で適任。極端な正常化に動くことはないだろう」との見方が出ている。
一方で「現在の債券市場における副作用について放置することも考えにくく、穏当な方法で徐々に政策を正常化していくのではないか」と元幹部は指摘している。
日銀新総裁を巡って首相は8日の衆院予算委員会で「主要国の中央銀行トップとの緊密な連携、内外の市場関係者への質の高い発信力と受信力が格段に重要になってきている」としていた。
(杉山健太郎、竹本能文、和田崇彦、木原麗花、山口貴也 編集:橋本浩)