[ロンドン 8日 ロイター] – ロシアはウクライナ侵攻を巡る欧米からの経済制裁により、政府の石油収入が大きく目減りした。この何百億ドルという金額を思わぬ形で流入しているのが海運、製油という2つの業界だ。だが、その中にはロシア系企業の影もちらつき、制裁効果を実質的に弱めている面は否定できない。

ロイターが商社や銀行の関係者少なくとも20人に取材したところ、「勝ち組」企業の大半はインド、中国、ギリシャ、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を構えているが、幾つかはロシアの資本が入っている。

これらの関係者の話では、どの企業も制裁違反はしていない。それでも、米国と欧州連合(EU)がプーチン大統領の「戦争マシン」の収入源を絶とうとの目論見で導入した措置からの恩恵に浴している。

主要7カ国(G7)が昨年12月にロシア産原油の輸入価格に上限制度を設けたことを受け、ロシア財務省が発表した1月の石油輸出収入は前年比で40%減少した。

カーネギー国際平和財団の非常勤研究員、セルゲイ・バクレンコ氏は「公定価格が低くなったことでロシアの国家予算はここ数週間、苦境に置かれている」と話す。

一方、通関統計に基づくと、こうした状況がもたらすメリットの一部はインドと中国の製油業者に波及しているが、最大の利得者は海運業者と仲介業者、そしてロシア企業であるはずだと付け加えた。

バクレンコ氏はロシア石油会社・ガスプロムネフチの元戦略責任者で、ウクライナの戦争が始まった後に退職し、ロシアからも出国している。

欧米の対ロシア制裁は、恐らく一国への措置としては最も厳しい。米国とEUがロシア産エネルギーの購入を全面的に禁止するとともに、輸出価格が1バレル=60ドル以下でない限り、世界のどこにもロシア産原油を船で出荷してはいけないと定められた。

これに伴ってロシアは、原油と石油製品のほとんどの輸出先をアジアに切り替え、インドや中国の買い手に対して、競合する中東産などよりも大幅に価格を引き下げている。

また、船舶輸送や輸出価格の制限で買い手が取引に慎重になっている上に、自前の船団で全ての輸送を賄えないロシアとしては、多額の輸送費も負担せざるを得ない状況だ。

1月終盤時点で、ロシアの石油企業がインドと中国の買い手に提示した原油の値引き幅は、1バレル当たり15-20ドルだった。取引に関わった少なくとも10人のトレーダーやロイターが確認したインボイスから判明している。

それだけでなくロシア側は、自国から中国ないしインドまで原油を輸送する費用として、1バレル当たり15―20ドルを支払った。

結果としてロシアの石油企業が1月に国内の港で受け取ったウラル原油の代金は、1バレル=49.48ドルと前年から42%も減少。北海ブレント価格の6割程度にとどまった、とロシア財務省が明らかにした。

これに対し、ウラル原油とグレードが同等の米国産マーズ原油をインドに輸出すれば、米国の業者が支払う輸送費は1バレル当たり5―7ドル程度で、指標のWTIに対する価格ディスカウント率も1.6%なので、業者は66ドル前後、もしくはWTIの9割程度の代金を受け取れる。

ロシアの2022年の原油生産量は日量1070万バレルで、原油と石油製品の輸出量が700万バレル。これに値引きや追加費用を加えて計算すると、今年の同国石油会社の収入は数百億ドル単位で減少することになる。

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は5日、価格上限制のためにロシアの石油収入は1月だけで80億ドル減ったと述べた。

ところが、こうした減収分のある程度がロシア企業に流れているので、同国の生産者や政府に本当はどの程度痛手だったのか、正確に数値化するのは難しい。

話を余計ややこしくするのが、ESPO原油など幾つかのロシア産原油がウラル原油よりも高価という点だ。

<海運業界に神風>

世界の海運業界は何十年も低調な利益や赤字に悩まされていたが、このロシア産原油の輸送事業が「神風」になっている。

恩恵にあずかっている企業にはギリシャの各海運会社のほか、ロシア国営でプーチン氏側近のセルゲイ・フランク氏が社長を務めるソブコムフロットも含まれる。

さらにギリシャやノルウェーのタンカー保有者の中には、老朽船をドバイ系の海運会社などに高値で売り払う動きも見られた。

サウジアラビアとUAEはロシアのウクライナ侵攻を非難せず、欧米からの圧力にもかかわらずロシアとの協力関係を拡大させている。

ロイターが確認したインボイスによると、ロシアの原油の売り手は1月、載貨重量8万─12万トンのアフラマックスタンカーがバルト海からインドの製油所まで70万バレルの原油を1回輸送するための費用として1050万ドル弱を支払った。

1年前に同じ航路ならば支払額は50万―100万ドルだったとみられる。

つまり海運会社からすると、現在の輸送コストが50万―100万ドルであることを踏まえれば、1回の輸送で1000万ドルの純利益が得られてもおかしくない。

あるロシア産原油のトレーダーは、この輸送事業を「途方もなく割が良い」とみなす。

<値引きで恩恵>

ロシアによる大幅な値引きで、インドと中国の製油業者も大助かりだ。

インドのロシア産原油輸入は、ここ数週間で日量125万バレル超と過去最高を更新。販売価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているため、インドは購入代金を月間で5億ドル以上も節約できている。

IOCやHPCL、BPCL、ナヤラ、リライアンスといったインドの主要輸入業者はいずれもコメントを拒否したが、ナヤラはロシア国営石油会社・ロスネフチが49%の株式を保有し、ロスネフチ最高経営責任者(CEO)のイーゴリ・セチン氏はプーチン氏側近の1人だ。つまり利益の一部をロシアが間接的に得ていることになる。

ボルテクサ・アナリティクスの中国アナリスト、エマ・リー氏は、昨年4月から今年1月までの中国のロシア産原油輸入が日量180万バレル強になったと話す。

ESPOとウラル原油の値引き幅がともに1バレル当たり10ドルとの推定に基づけば、中国の製油業者もこの10カ月間で約55億ドルの費用を節約した、ということがロイターの計算で導き出される。

(Dmitry Zhdannikov記者、Chen Aizhu記者、Nidhi Verma記者)