[東京 17日 ロイター] – 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は17日午前に予定していた新型主力ロケット「H3」初号機の打ち上げを中止した。補助の固体ロケットブースターに着火しなかったため。詳しい原因はまだ調査中だが判明次第、対策を講じ、3月10日までの予備期間内での再打ち上げを目指す。
H3は現在の主力ロケット「H2A」の後継機で、JAXAと三菱重工業が2014年から共同で開発。国の人工衛星などを宇宙へ輸送するほか、世界で高まる商業衛星打ち上げ需要の受注獲得に向け、2000億円余りを投じて開発を進めてきた。
H3の初号機はこの日午前10時37分ごろ、種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から打ち上げられる予定だった。メインエンジンは正常に着火し、大きな白い煙が上がったが、JAXAによると、補助の固体ロケットブースターを着火させる信号がなんらかの理由で送信されなかった。ブースターが着火しなかったことを受け、メインエンジンは設計通りに自動停止した。
JAXAのH3プロジェクトチームの岡田匡史プロジェクトマネージャーは同日午後に会見し、打ち上げを心待ちにしていた関係者や観客の方々に対し「申し訳ない。ものすごく悔しい」と涙ぐみながら述べた。今回の打ち上げは3月10日までの予備期間が設けられており、再打ち上げは「予備期間内で考えるのが第一歩。全力でそこをまずは目指していきたい」と話した。
ブースターへの着火信号の送信は、JAXAではカウントダウンの一連の作業プロセスの一部となっているため、今回は「打ち上げの『失敗』ではなく『中止』と捉えている」とも説明。メインエンジンは「データ的には異常なしで、継続して使えるのではないか」との見解を示した。
初号機には災害時の被害状況などを把握するための地球観測衛星「だいち3号」を搭載しており、だいち3号は北朝鮮の弾道ミサイル発射などを早期に探知できる光学センサを載せていた。初号機打ち上げは当初2020年度を計画していたが、メインエンジンの開発が難航し、延期が繰り返された。
打ち上げが成功すれば、新規開発の大型ロケット打ち上げとしては1994年の「H2」から約30年ぶりとなるはずだった。H3は、米国が主導する月探査計画「アルテミス計画」での物資輸送も担うことになっており、今後の宇宙ビジネスで日本の存在感を示せるか試されている。
大阪大学の渡辺浩崇特任教授(宇宙政策などが専門)は、現段階では中止・延期であり、ロケットと衛星が失われたわけではないと指摘。遅れは痛手だが、「原因の究明と解決を急ぎ、3月末までに無事に打ち上げることができれば、ほぼ影響はない」と話す。低コスト化を進めつつ、試験機から移行して2、3号機をどれだけ早く打ち上げることができるかのほうが「宇宙ビジネス・技術競争力により重要だ」と語った。
H3の特長は打ち上げ費用の安さで、一定条件下ではH2Aの半額となる約50億円を目指している。打ち上げ成功率の高さなどH2Aの信頼性を維持しつつ、用途に合わせて機体サイズやエンジンなどを変更できる柔軟性も強みとする。
ロケットの打ち上げ市場は競争が激しくなっている。起業家イーロン・マスク氏が率いる米スペースX社の主力ロケット「ファルコン9」は機体の一部が再利用できるため、打ち上げ費用の削減につながり、価格競争をリードしている。ウクライナ侵攻に伴う西側諸国の経済制裁に反発するロシアが外国の衛星打ち上げを凍結しており、ロシア以外の国にとっては商機も広がっている。欧州の新型ロケット「アリアン6」も今年打ち上げを予定する。