• S&P500種の年末予想、3カ月間連続で4050のまま変わらず
  • 23年利益予想、銀行破綻の前の週から1株当たり約220ドルで推移

銀行混乱によるストレスが市場に対してどのような意味を持つのか-。理解に苦しんでいるのはストラテジストやアナリストら専門家も同じだ。

  猛烈な勢いで押し寄せるニュースに対して、株式ストラテジストや企業アナリストらの反応は一様に「無反応」だ。新たな道を進むのに前向きではないのか、新たな命題を明確に説明することができないのか、あるいはただ単に重要なことが起きていることを確信できていないのか、専門家の予想は今回の銀行混乱が起きる前とほぼ同じ水準にとどまっている。

  この停止状態は、マクロ経済のトレンドを基に市場を予測するウォール街のストラテジストの間で特に目立つ。これらストラテジストによるS&P500種株価指数の年末予想(平均)は、3カ月連続で4050のまま変わらず。こうした変化のない状況が続くのは2005年以来だ。

  確信犯的でもあるが、この静けさはむしろ、経済や市場がどこに向かっているのかを巡る混乱を映しているようにみえる。後者については、S&P500種の年末予想レンジの上限と下限の差が47%と、この時期としては過去20年間で最も大きいことがブルームバーグが集計したデータで示されている。

  トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズの創業者、マイケル・パーブス氏は「結果が読めないスローモーションのような出来事の連続だ」と指摘。「今回の地方銀行の危機がどれだけ波及するか分からない。危機が勢いを増した際の政府の対応も分からない。そして貸し出しが止まった場合、収益にどれだけの打撃を与えるのか不透明だ」と語った。

ストラテジストの年末株価予想は変わらず出所:ブルームバーグ

  こうした反応の鈍さは、銀行混乱を受けて素早くポジションを調整した大手資産運用会社とは対照的。ゴールドマン・サックス・グループのトレーディングデスクがまとめたデータによると、株式ロング・ショート戦略のヘッジファンドは金融株を売り、大型のテクノロジー株に避難した。トレンドフォロー戦略のファンドは、クロス資産のボラティリティーにつかまって一部のポジションを解消したという。

  ゴールドマンのデータによれば、現状でヘッジファンドにおける株式のネットエクスポージャーは1年間のレンジの19パーセンタイルと低い水準にとどまっており、ミューチュアルファンドの現金保有は15カ月連続で増加している。商品投資顧問(CTA)は約1300億ドル(約17兆2000億円)の先物のロング(買い持ち)から約280億ドルのショート(売り持ち)となっている。

  同社のマネジングディレクター、ボビー・モラビ氏はリポートで、「大半の投資家群はこの数週間、つらい毎日を送っているようだ」と指摘。「ほぼあらゆるところで確信を欠いた状態が続いているが、少なくともポジショニングはほぼ間違いなく今年初めてセンチメントと一致している」と記した。  

23年利益予想は銀行破綻の前の週から1株当たり220ドル近辺のまま出所:ブルームバーグ

  確かに動かないことが最近は利益につながっている。S&P500種は2週連続で上昇し、地銀株の急落に伴う下げをほぼ帳消しにした。米国債は空売り投資家に打撃を与えていたが、過去40年で最悪のボラティリティーの中で持ちこたえていれば、相当な利益を上げていただろう。現時点でトレーダーは、どちらの方向にもマーケットを動かそうとはしていない。

  個別銘柄を担当するアナリストらは、企業収益の見通しをほとんど変えていない。S&P500種の構成銘柄全体の2023年の利益予想は、シリコンバレー銀行(SVB)など金融機関が破綻する前の週から1株当たり220ドル近辺で推移している。

  1-3月(第1四半期)の決算発表を約2週間後に控え、アナリストの多くは企業側からのガイダンスを待って予想値を調整することが考えられる。

  データトレック・リサーチの共同創業者、ニコラス・コラス氏は「米国の経済と労働市場はこの9カ月間、驚くほど強固で、市場はこの状態を企業収益も好調を維持できることを意味していると読んでいる」と指摘。「第2四半期の前半に入手できる経営側のガイダンスと第1四半期決算で、この推測が試される」と語った。

原題:Shocked Wall Street Has No Idea How to Price In Banking Upheaval(抜粋)