アイルランドのバラッカー首相(右)を迎えるバイデン米大統領=3月17日、ワシントン(AFP時事)
アイルランドのバラッカー首相(右)を迎えるバイデン米大統領=3月17日、ワシントン(AFP時事)

 【ロンドン時事】英領北アイルランドで、英国の統治維持を望むプロテスタント系「ユニオニスト」と、アイルランドとの南北統一を求めるカトリック系「ナショナリスト」の紛争に終止符を打つ和平合意が成立してから10日で25年。この間、和平プロセスは一定の進展が見られたが、両派の対立は残り、合意の柱である共同自治は停滞している。和解は依然道半ばだ。

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 ◇EU離脱も影

 北アイルランドでは1960年代からの紛争で3500人以上が犠牲になった。98年4月10日の和平合意で両派の権力分担制度が導入され、平和と安定へ期待が高まった。しかし、共同自治は機能不全に陥る事態を繰り返している。

 昨年の自治議会選では、カトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の元政治組織で南北統一を目指すシン・フェイン党が第1党となった。これに反発するプロテスタント系が協力を拒否し、現在も自治は停止中だ。

 英国の欧州連合(EU)離脱も北アイルランドに影を落としている。離脱では南北アイルランド間の国境管理が大きな懸案となり、和平合意25年を前にスナク英首相がEUとの協議に奔走、2月に合意にこぎ着けた。しかし、内容を巡る各党の立場の違いは残り、火種はくすぶり続けている。

 北アイルランドの中心都市ベルファストにあるアルスター大学のダンカン・モロー教授(政治学)はAFP通信に対し「25年前に人々が抱いた(平和達成への)願いは実現していない」と認めた。ただ「一方で、合意前の状態の方が今より良いと言う人は極めて少ない」とも指摘している。

 ◇歩み寄り促すか

 こうした中、バイデン米大統領が11日から南北アイルランドを訪問する。25周年に合わせて和平への支持を再確認することが大きな目的だ。

 98年の和平合意調印では、当時のクリントン米大統領が対立各派の仲介を支援するなど重要な役割を果たした。米国には北アイルランドの約190万人と南のアイルランドの約500万人を合計した人口をはるかに上回る約4000万人のアイルランド系米国人が暮らしている。クリントン氏やバイデン氏もアイルランド系と見なされている。

 米国は現在も北アイルランド情勢に強い影響力を持つ。バイデン氏の訪問が歩み寄りを促す機会になると期待する声もあるが、自治再開へと結び付く動きは見えてきていない。