[9日 ロイター] – 3月の米銀行危機では、空売り筋が株価下落に拍車をかけたとされる。このため空売りは企業の財務悪化に警鐘を鳴らす「英雄」か、はたまた他人の不幸につけ込んで儲ける「悪役」か、という議論が今回も持ち上がった。

米地銀シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した後、米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクの株価は2桁台の下落を演じた。関係筋によると、空売り筋はこの間、同行株への売りをさらに増やし、結果として株価の回復は難しくなった。

ファースト・リパブリックの浮動株数に対する信用売り残の比率を見ると、3月初めには非常に低かったが、3月31日までに7%から37%(各社の計算方法によって異なる)に上昇している。この時、米株全体の平均は3─5%だった。

3月に経営破綻したSVBとシグネチャー銀行についても、株価が下落し始めると同時に売り建玉が増えるパターンが見られた。

急激な金利上昇に加え、銀行が投資していた暗号資産(仮想通貨)やハイテク株の下落に伴い、一部米地銀の経営問題は昨年から拡大し始めていた。それが一気に表面化したのは先月、預金の取り付け騒ぎが起きて地銀株が一斉に売られてからだ。

データや関係者への取材によると、今回の銀行危機に関して言えば、株価下落に拍車をかけた空売り筋には英雄と悪役の両面があるのかもしれない。

非営利団体、ベター・マーケッツのデニス・ケルハー代表は電子メールで「空売り筋は銀行破綻の数カ月前から、あの銀行(SVB)の経営は危険だと市場に警告を発していた」と指摘。「問題はいったん破綻すると、さまざまな動機を持った空売り筋が他の銀行を狙い始めたことだ」と述べた。

空売りを手がけるジム・チャノス氏は3月13日、顧客向けの書簡で、SVBの破綻につながったバランスシートの根本的問題を投資家は昨夏から知っていたと説明。しかし、SVBが「突如として資本を調達しようとして失敗した時になって初めて、人々は気にかけるようになった」と語った。

<昨年から警鐘>

銀行危機が加速していた3月17日、JPモルガン・チェースの株式アナリストチームは、空売り筋が「一緒になって銀行に売りを仕掛けている」と記した。ベンチャーキャピタリストのデービッド・サックス氏は「口汚い空売り筋」がソーシャルメディアを使ってSVBの取り付け騒ぎに拍車をかけているとツイートした。

JPモルガンとサックス氏は、コメント要請に答えなかった。

だが、取材や公開情報によると、少なくとも一部の空売り筋は危機のずっと前から米地銀を空売りしていた。

ヘッジファンドを運用するシーウルフ・キャピタルの共同創業者、ポーター・コリンズ氏は、金利上昇による銀行への影響を見越し、昨年初頭にはSVB、シグネチャー、ファースト・リパブリック、チャールズ・シュワブを空売りしていたと説明。「警告信号が出ていた。注視していた人々にとっては、簡単に目に留まる信号だった」と述べた。

<空売り犯人説に異論も>

もっとも、早期に空売りしていた向きは少数派だった。データ会社S3パートナーズによると、3月1日時点でSVBの浮動株数に対する信用売り残の比率は約5%に過ぎず、ファースト・リパブリックは3%前後、シグネチャーは6%だった。株式市場全体は約4.65%だ。

S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスやORTEXなど、計算方法の違うデータでも似かよった数字が示されている。

3月を通じてこの比率は上昇し、ピーク時にはファースト・リパブリックで7─39%、SVBで11─19%、シグネチャーで6─11%となった。

もっとも、これらの数字は空売りの標的として知られる一部の銘柄に比べれば、はるかに低い。リフィニティブのデータによると、例えば、電気自動車(EV)のテスラは2019年に信用売り残の比率が約25%、ゲーム販売のゲームストップは20年に100%超に達する局面があった。

S3パートナーズのイホール・デュサニウスキー氏は、3月の米地銀株の空売り増加は、銀行株取引全体の中で「極めて小さい」部分でしかなかったと指摘。株価下落を主導したのは、通常の株式保有者による売りだったと言う。

同氏は「空売り筋が、株価を押し下げているわけではない。尻尾が犬を振り回しているように言われているが、これらの銘柄の大半には全く当てはまらない」と語った。

(Lawrence Delevingne記者)