けさ驚いたのは北朝鮮のミサイル発射でもJアラートの混乱でもない。ロイターが未明に配信した次の記事だ。タイトルは「スイス議会、クレディS救済を再び『不承認』、象徴的採決」。議会がクレディ・スイス(CS)の救済を承認しないとなれば、すわ、再び金融不安の再燃か。一瞬、そんな懸念が脳裏を駆け巡った。記事には「スイス議会は12日、経営危機に陥った金融大手クレディ・スイスのUBSによる買収に対する政府の1090億スイスフラン(1208億2000万ドル)の支援を巡る採決を再度行い、承認を改めて否決した」とある。日本円に換算すれば16兆円規模の政府支援を議会が否決したのである。政府支援がなければUBSは買収を拒否するのではなか。大変なことになる。金融不安が再燃し世界中で株が暴落し、債券が投げ売りされ、金利が跳ね上がる。為替はどうなるのか、金融危機の再燃だ。

スイス議会は何をしているのか?記事によるとことの経緯は以下の通りだ。「議会上院は11日、クレディ・スイスのUBSによる救済合併と、それに伴う当局の支援措置を『追認』したが、その後、下院(200議席)が反対102票で否決。12日未明まで激しい議論が続いていた。12日に上院で再び討議され、若干の変更を加えた上で下院に送られたものの、反対107票で再び否決された」とある。僅差だが2回の採決でCS救済策はいずれも否決されてしまったのだ。だが、よく読むと事態はさほど深刻ではなかった。「UBSによるクレディ・スイスの買収に関連する支援措置に財政資金を利用することは緊急事態法で裏付けられており、議会が決定を覆すことはできないため、採決結果は象徴的な意味合いが大きい」とある。なんということだ。議会にC S救済劇を覆す権限はないのだ。見出しにあった「象徴的な意味合い」の意味がようやく理解できた。

決定権がないのに議会は、2日間にわたって侃侃諤諤の議論を行ったことになる。なんのために?そこはこの記事からは読み取れない。賛成派も反対派も己の信念に基づいて激論を続けたのだろう。理由はともかく国家の重要課題について議論する、そのことに労を惜しまないスイス議会のあり方は、民主主義の本来あるべき姿なのかもしれない。一部議員の間には「スイスのイメージ悪化」を懸念する声もあったという。個人的にはそうは思わない。時間がかかっても議論で決着をつける。EUをはじめ欧州に定着している議論民主主義が、スイス議会にも根付いているように見える。EUをみれば明らかだろう。何でもかんでもとにかく議論する。だから決定までに莫大な時間がかかる。それでも議論するしか道はない。誠心誠意議論を尽くすのだ。かつて“熟議民主主義”を唱えた某政党は、党利党略を優先して自滅した。価値観を共有する民主主義陣営にあっても、民主主義の質には大きな違いがあるようだ。