日本学術会議の事務局が入る建物(奥)と看板=東京都港区(鴨川一也撮影)
日本学術会議の事務局が入る建物(奥)と看板=東京都港区(鴨川一也撮影)

岸田文雄首相が日本学術会議法改正案の今国会への提出を見送ったことに対し、自民党内では21日、反発が広がった。提出断念は改正案に反対する学術会議や野党の主張に屈した形に見えるためだ。法案提出に反対してきた一部野党からも、首相の判断を批判する声が上がった。

「なかなか(学術会議の)理解が得られないので、今回は取り下げる」

木原誠二官房副長官は21日、衆院議院運営委員会理事会に出席し、同法改正案の今国会提出を見送る考えを与野党に伝えた。

この政府方針に対し、自民内では21日、「本当にけしからん」(閣僚経験者)「首相は何を考えているのか、分からない」(参院中堅)といった不満や批判が渦巻いた。

自民は学術会議に関するプロジェクトチーム(PT)で、政府から独立した法人格への組織変更を提言した経緯がある。しかし、政府は「国の機関」として維持した上で学術会議に会員選考の改革を求める内容の政府の改正案をまとめた。このため党内には「かなり譲歩した」(参院中堅)との思いが強い。

自民の世耕弘成参院幹事長は21日の記者会見で、政府の改正案について「ぎりぎり、学術会議側に歩み寄ったものだ」と説明。学術会議の運営に関し「どうしても自分たちだけで人事を決めたいなら、例えば民間的な組織として自由にしていただく選択肢もある」と指摘した。

首相の真意について、自民幹部は「この法案以上は譲れない。これでだめなら民営化だと学術会議に迫っているのではないか」と解説する。首相周辺も「民営化を軸に自民で議論されていくだろう。学術会議側は自滅の引き金を自ら引いた」と語る。

ただ、真意がそうであっても、党内にはほとんど伝わっていないのが実情だ。選挙戦の最中に、法案提出に反対してきた立憲民主党や共産党の主張を認める判断が下ったことに「保守票が逃げる」(参院中堅)といった懸念や批判が出ている。

立憲民主党の泉健太代表は21日の記者会見で、民営化の検討に言及し、「圧力が継続すると見ることもできる」と批判した。共産党は法案提出見送りを歓迎し、同日付の機関紙「しんぶん赤旗」で「学術会議法改悪案見送り 広がる批判 政府追い込む」の見出しを付けた記事を掲載した。(原川貴郎)