[東京 28日 ロイター] – 日銀の植田和男総裁は28日、金融政策決定会合後の記者会見で、金融引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクより、拙速な引き締めで2%の物価安定目標を実現できなくなるリスクの方が大きいと指摘し、粘り強く金融緩和を継続していく考えを示した。四半世紀にわたる金融緩和策のレビューについても、短期的な政策変更とは一線を画し、自身の5年任期の政策運営に役立てたいと語った。
<多角的レビュー、将来の政策運営に有益な知見得るため>
今回は9日に就任した植田総裁の下での初の決定会合となった。金融政策の現状維持を全員一致で決めたほか、1990年代後半以降の金融緩和策を対象に多角的なレビューを実施することも決定した。
レビューを行う理由について植田総裁は「これまでの政策運営の理解を深め将来に向けて有益な知見を得るため」と説明。1年から1年半でレビューの結果を出し、残りの任期に役立てたいと語った。
植田総裁は今回のレビューがただちに政策修正につながるものではないと強調。「レビュー」という言葉には、近い将来の政策変更に結びつきやすい点検や検証という言葉から「少し距離を置く意味」も込めたと説明した。黒田東彦前総裁の下では2016年に「総括的な検証」、21年に「政策点検」が実施され、いずれのケースでも政策変更につながった。
レビュー結果がどのような政策運営につながるかは「現時点で決まってない」という。現在は基調的なインフレ率が持続的・安定的に2%に達していないという判断だが、レビューを実施している間にそれが変わる可能性はゼロではないと説明。そうなれば「それに伴って政策変更はあり得るということになる」と述べた。
レビューは日銀の内部スタッフによる分析を中心としつつ、外部の有識者を招いた研究会の開催や学者などへの個別ヒアリングの実施も想定している。全国の支店・事務所のネットワークを利用して意見交換なども行う。
<フォワードガイダンスの修正>
政府が新型コロナウイルスの感染症法上の分類を引き下げることに伴い、決定会合後の声明文では、金融政策の先行き指針で従来あった「新型コロナの影響を注視」との文言が外れた。
新たに、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて「機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していく」ことで、賃金上昇を伴う形で2%の物価目標の持続的・安定的な実現を目指していくとする1文を追加する一方で、政策金利について「現在の長短金利水準、または、それを下回る水準で推移することを想定」とする1文は省いた。
政策金利の引き下げバイアスを削除したことについて、植田総裁は「これまでの金融緩和を粘り強く続ける文言を入れ、その中で(引き下げバイアスを)読み込むと整理したつもりだ」と説明した。
<強まる物価上昇圧力、くすぶるYCC撤廃観測>
植田総裁は、インフレ率が今年度後半に2%を下回る水準まで低下するのはある程度の確度をもって予想されるものの、そこから反転して再び上昇していくにはさまざまな前提条件が満たされる必要があると指摘。多くの政策委員がその点に不確実性が高いとみており、「もう少し辛抱して、粘り強く金融緩和を続けたいというのが正直な気持ちだ」と述べた。
しかし、足元で物価上昇圧力は高まっている。28日に発表された4月東京都区部消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年同月比3.5%上昇となった。生鮮食品・エネルギーを除く総合指数の前月比(季節調整値)は0.6%上昇で、年率換算で7%程度の高い伸び率になる。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは、全国コアCPIは年前半くらいまでは前年比プラス3%台前半の伸びで推移する可能性が高く、2%を下回るのは今年の年末頃までずれ込みそうだと話す。
また、基調的な2%の物価上昇率の達成、もしくはそれを上回る物価上昇の懸念が意識されてからイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃に動くと、長期金利の急上昇やそれに伴う金融市場の不安定化を招き、植田総裁がかつて述べた市場の「非常に大きな調整」が生じる可能性があると指摘。政策の自由度を確保する観点からも、早ければ6月会合でYCC、特に長期金利の目標を撤廃する可能性があるとしている。
(和田崇彦、杉山健太郎 編集:田中志保、石田仁志)
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▽日銀、金融政策の現状維持を決定:識者はこうみる<ロイター日本語版>2023年4月28日2:17 午後