「異次元の少子化対策」の雲行きが怪しくなってきた。財源の確保をあいまいにしたまま、「つなぎ国債」で見切り発車する流れが強まりつつある。これで、安心できる制度が実現できるのか。子育てを社会全体で支えるという原点を再確認し、税の議論も排除せずに検討を尽くすべきだ。
政府は、今後3年間を少子化対策の集中取り組み期間と位置づけ、児童手当や子育てサービスの拡充に取り組む構えだ。必要な費用は約3兆円と見込まれている。
財源として、医療保険料に上乗せする新たな「支援金」が検討されてきたが、最近にわかに浮上してきたのが、社会保障分野の「歳出改革」だ。医療や介護の給付抑制、患者・利用者負担増などで、1兆円近くを捻出する考えとみられる。
「支援金」の規模を抑える狙いなのだろうが、これでは、社会保障の中での予算の付け替えに過ぎない。実現可能性にも疑問符がつく。かつての小泉内閣の構造改革路線は、社会保障費を毎年2200億円ずつ5年間削減しようとしたが、「医療崩壊」との批判を浴びて軌道修正を余儀なくされた。
医療・介護分野での負担と給付の見直しはこれまでも検討されてきたが、それは高齢化と人口減の進展の下でも制度を持続させる目的だった。そこからまとまった新規財源を引き出せるかのような想定で事を進めるようでは、子ども政策に必要な新たな支え合いを真剣に考えているのか、疑わざるをえない。
さらに議論をゆがめているのが、消費税を含めた新たな税負担を全て否定した岸田首相の発言だ。あくまで今後3年間に取り組む政策の財源について述べたもので、将来の増税論議まで否定していないとされるが、なぜ今だけ「封印」なのか、理解に苦しむ。
防衛費増強のための増税をすでに決めてしまったので余地がないというのでは、到底理解は得られない。再考すべきだ。
一方で、早くも聞こえてくるのが「つなぎ国債」を使った給付拡充の先行実施だ。今が少子化を反転させる最後の機会と言われる中で、時を置かずに政策を進める必要はあるだろう。だが、そうした手法が許されるのは、一定の期限を切って、安定財源確保の具体的道筋を明示する場合に限られる。
衆議院の解散・総選挙も取りざたされる中、財源の議論を置き去りにして給付拡充だけをアピールすることは許されない。全世代で子育てを支え、所得に対して負担が逆進的にならない制度をいかに構築するのか。真剣に向き合うときだ。