[東京/パリ 24日 ロイター] – 日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)がアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)を監視していたと執行役員の1人が内部告発し、同社が調査を開始したことが分かった。事情を直接知る関係者4人が明らかにした。

内部告発をしたのは、かつてカルロス・ゴーン元会長の不正に一部関与しながら司法取引で捜査に協力したハリ・ナダ専務執行役員。現在は訴訟対応や会社として対処すべき重要課題などの特命業務を担う。4月19日付で独立社外取締役に内田氏を告発する文書を送った。

内部告発があったことは英紙フィナンシャル・タイムズなどが先に報じたが、ロイターがこのほど告発文書を確認、詳細な中身が判明した。グプタ氏への監視、仏ルノーとの関係を巡る経営陣の分裂、ルノーの電気自動車(EV)新会社に知的財産を移転することへの懸念に触れている。ナダ氏は日産の人事、法務、知的財産の各責任者にも文書を送付した。

同文書の中でナダ氏は、内田社長が長期間にわたってグプタ氏を監視したと主張。ルノーとの協議を合意させる上で内田氏はグプタ氏が障害になると考え、排除しようとしたとしている。

同文書と関係者4人によると、2019年にCOOに就任したグプタ氏は、内田社長がルノーと最終合意をしようとしているアライアンスの見直し条件に疑問を呈していた。

日産はロイターの取材に対し、「現在、独立した第三者機関を採用し、事実の検証ならびに適切な対応を行っている」と回答した。ロイターはグプタ、ナダ両氏にコメントを求めたが、回答を得られていない。内田社長には日産を通じてコメントを求めたが、同社は応じなかった。

関係者の1人によると、内部告発に対する調査は5月下旬に始まったが、ロイターは誰が調査しているのか特定できていない。また、ナダ氏は内田氏がグプタ氏を監視しているとする根拠を文書の中で詳述しておらず、ロイターも実際に監視が行われていたかを確認できていない。

企業の不正調査などに詳しい竹内朗弁護士は、会社が従業員や役員を監視することについて、一般的に、貸与したパソコンや携帯電話を調べることは問題ないと語る。一方、個人が所有する携帯などにまで及ぶと問題になる可能性があると指摘する。

社外での行動を監視することは、「会社にとって問題となる行為が社外で行われると合理的に想定される場合には問題はない」と説明。「そうでない場合には社外の行為は私的領域になるため、私的領域への過度の干渉として問題とされることがある」と話す。

<ハラスメント疑惑>

日産は5月12日、次期CEO候補ともみられていたグプタ氏が任期満了で6月27日の株主総会後に取締役を退任すると発表した。さらに6月17日、同氏が「新たなキャリアを追求するため」6月末に退社すると発表した。

しかし、ナダ氏の内部告発文書によると、グプタ氏の行動について社内通報が寄せられ、4月10日の週にグプタ氏の行いに関する疑惑を精査し、日産が同氏の退任を求めた。この件の調査はアンダーソン・毛利・友常法律事務所が主導したとしている。関係者3人によると、通報は女性従業員からで、グプタ氏によるハラスメントを訴える内容だった。

関係者1人によれば、疑惑が持ち上がったのは3月。日産がグプタ氏の退社を発表した時点で調査は終わっていなかったという。ロイターはハラスメントの具体的な内容や調査結果を独自に確認できなかった。同事務所にも尋ねたが、コメントを控えた。

<ルノーとの交渉に懸念>

ナダ氏の告発文書の内容は、5年前にゴーン元会長が逮捕されて以降、ルノーとの関係を巡って日産社内の意見が割れたままであることを浮き彫りにした。

日産とルノーは2月、1999年以来続いてきた資本関係を見直し、互いの出資比率を15%に揃えることで合意した。ルノーが設立するEV新会社に日産が最大15%出資することも決めた。今年半ばまでに両社の取締役会で最終決定することを目指していたが、年末までずれ込む見通しと関係者2人は話している。

ルノーの事情に詳しい関係者によると、ジャンドミニク・スナール会長やルカ・デメオCEOら同社幹部もグプタ氏が両社の合意を邪魔しようとしているとみていたという。

ルノー広報はロイターの問い合わせにコメントを控えた。スナール会長とデメオCEOも広報を通じてコメントを控えるとした。

アライアンスを組む日産とルノーの関係が変わろうとする中で、ナダ氏が日産トップを告発するのはこれで2回目。5年前に司法取引でゴーン元会長の捜査に協力した当時、ナダ氏はゴーン氏がルノーと日産の経営統合を検討していることに懸念を示していた。ゴーン氏の共犯として起訴されたグレッグ・ケリー元取締役の裁判では、日産の利益を守るためにルノーとの合併を阻止しなければならないと考えていた、と証言している。

日本での裁判を免れるためレバノンに逃亡したゴーン氏は、金融商品取引法違反の罪などに問われた一連の「事件」の実態は、経営統合を警戒したナダ氏を含む日産幹部によるクーデターだと繰り返し主張してきた。

ナダ氏は今回、内田社長が自身で「裏交渉」と呼ぶデメオCEOとのやり取りの中で譲歩や約束をし、権限を逸脱したと告発文書の中で指摘している。ナダ氏は2つの例を挙げており、いずれも知的財産の条項に絡むものだった。

内田社長がルノー側と話し合った内容は、日産取締役会が執行側の最高意思決定機関エグゼクティブ・コミッティの意見を聞きながら決めることになっていた、と事情を知る関係者の1人は説明する。

ナダ氏は文書の中で、内田氏がルノーのEV新会社に最大15%の出資を決めたことについても、戦略的な根拠がなかったと批判しており、独立した財務アドバイザーに依頼し、この出資を検討し直すよう求めている。

ナダ氏の要求を受けて現在の取締役会が出資の再検討に乗り出したのか、ロイターは確認できていない。

ナダ氏は、ゴーン元会長の不正を受けた企業統治改革の一環として見直されたエグゼクティブ・コミッティとステアリング・コミッティのメンバーを務めている。ナダ氏によると、うち1つのコミッティでルノーのEV新会社に出資する合理的な根拠があるか検討されたが、説得力ある理由を見出せなかった。

ロイターはEV新会社への投資に関するナダ氏の見解を独自に確認できなかった。

突然決まったグプタ氏の退任は、社内で扱いにくいと見られたり、反ルノーと見られている人たちへの警告になるだろうと、ナダ氏は指摘している。

(取材協力:デービット・ドラン、ジル・ギヨーム 編集:久保信博、石田仁志、橋本浩、豊田祐基子)