【武漢時事】東京電力福島第1原発の処理水放出から3週間余り。放出に反発する中国では、日本関連イベントが徐々に実施できるようになり、日本を激しく批判する官製メディアの報道も当初より落ち着いた。影響の早期収束が期待される一方、「いつまで続くのか見通せない」と長期化を懸念する声もある。
◇薄氷の開催
8月24日の放出直後、日本関連イベントは反日感情の悪化を考慮し、延期が相次いだ。一方、9月7日には湖北省武漢市で、中国のバイヤーを対象にした日本酒の商談会が予定通り開催された。出展した37社に対し、訪れたバイヤーは100人超。同規模の商談会としては少人数となったが、主催した日本貿易振興機構(JETRO)の関係者は「人数より、この状況下でも来てくれる人を大切にしようと方針を転換した」と明かす。
出展側によれば、処理水の放出を受け、事前にイベント実施の賛否を問う多数決が行われた。「敏感な時期」であることを理由に延期を求める意見も複数出たが、結果は1票差で薄氷の開催となった。無事に開催を終え、関係者の間では影響収束への期待が高まる一方、「数カ月後の状況が予測できず仕事の計画が立てにくい」といった声も漏れる。
◇「差別はいけない」
処理水放出への極端な反発を抑制する動きも出ている。放出開始後、批判の急先鋒(せんぽう)だった共産党機関紙系の環球時報は、今月に入ってからも英語版の見開き1面で「パンドラの箱を開けた」などと批判記事を展開している。ただ、関連報道は減少傾向にあり、8月30日の社説では「極端な感情をあおる発言には気を付けなければならない」と指摘した。
9月になっても、遼寧省大連市の焼き肉店が「日本人お断り」と看板を掲げ、当局から撤去を指示されたという投稿がネット上で波紋を呼んだ。中国の著名論客、胡錫進氏は自身のSNSで「核汚染水に憤慨する気持ちは同じだが、看板には賛同しない」と表明。国家間の衝突が「相手国民への差別になってはいけない」と呼び掛けた。
また、中国紙・南方週末は、国内の漁民の未来が「不確定な状態に陥っている」と強調。日本料理店だけでなく中華料理店も海鮮を使っており、消費が打撃を受けていると伝えた。国内経済への影響を報じることで、過度に海鮮を避ける風潮を抑える狙いもありそうだ。
ただ、政府の主張と反する投稿の検閲は続いているもようだ。香港フェニックステレビが8日、東京・築地での取材を基に、福島県産の水産物を「世界の観光客は全く気にしていない」とSNSに投稿したところ、後に閲覧不能となった。投稿では、福島の魚を「清潔で衛生的」と評したり、「通常通り食べる」と答えたりする外国人観光客の声が報じられていた。