藤井聡太8冠が誕生した。縁台将棋に毛が生えたような知識しかないが、日本将棋連盟が主催するタイトルを総なめにした偉業をどう表現したらいいか、よくわからない。盤面で動き回る駒の数は全部で40枚。「王将」と「玉将」に分かれて対峙し、残り19枚の駒を使って相手の王様を取り合うゲームだ。指し手の数はコンピューターを使えば計算できる。おそらく天文学的な数になるはずだ。その指し手をプロ同士が読み合う。何手ぐらい先まで読めるのか、元名人の加藤一二三プロが「読むだけなら3,000手ぐらい先まで軽く読める」、そんな発言をしていたのを朧げにおぼえている。書き出せば1冊の本になるそうだ。それを聞いてとんでもない世界だと思った。そんなプロがゴロゴロいる世界で、すべてのタイトルを独占する頭脳。これは明らかにコンピューターを超えている。
藤井8冠の凄さはそれだけではない。連綿と続いてきた将棋界を革命的に変革したことだ。何を変えたのか?将棋の世界を野球やサッカーの試合のように“見える化”し、劇場化したことだ。読売新聞によると、将棋界で近年急激に増えているのが「観る将」(みるしょう)と呼ばれる人たちだ。自らは将棋を指さず、専ら対局観戦を楽しむ人たちのことを指す。女性が圧倒的に多いそうだ。そういえば8冠達成を伝えるテレビのニュースで、8冠の出身地である瀬戸市のファンが「逆転モナカ」を頬張りながら喜びを爆発させていた。もちろん女性ファン。将棋とは無縁に見えるオバチャンたちだ。これも藤井8冠の功績だろう。モナカが飛ぶように売れて、瀬戸市の一角に消費需要が生み出された。そう言えば藤井8冠の登場でタイトル戦の昼食やおやつが話題になっている。これも日本経済に不足している需要創出効果のひとつだ。
藤井8冠と言えばコンピューターの代名詞のようなプロだ。最近は将棋も囲碁も、テレビ中継には必ずと言っていいほど勝つ可能性をしめす確率が表示されている。きのうの王座戦では終局直前の確率が藤井7冠1%、永瀬王座99%だった。誰もが王座の勝利を確信した。ところが、次に王座が「五4馬」と刺した瞬間、この数字が逆転した。確率を示すグラフが垂直に藤井7冠に向かって落下する。劇的な逆転劇の一瞬。「観る将」はまるで野球場で、9回裏2アウトから逆転満塁さよならホームランを観戦したような気分になる。敗着に気づいた王座が身悶える場面も、命をかけて将棋を指すプロとして危機迫るものがあった。その永瀬プロ、感想戦で「負けは負け、次を目指して頑張る」と語る場面で思わず胸が熱くなった。タイトル戦の新規需要は数十億円に上るとの試算もあるようだ。藤井8冠のもう一つ凄いところ、それは新しいファンと需要を生み出したことだ。
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