NHKは岸田総理が23日に行う臨時国会での所信表明演説の原案を入手した。それによると今後の政権運営では経済を最優先するとした上で、今月末をめどに策定する経済対策をめぐり、急激な物価高に賃上げが追いつかない現状に触れ、「減税も念頭に、経済成長による税収の増加分の一部を国民に還元する」と強調している。また、各自治体で低所得者世帯への給付措置にも使われている「重点支援地方交付金」を拡大すると表明、地方にも細かく目配りする方針を示している。まだある。地域交通の担い手不足などの社会問題に対応する観点から、一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェアの課題にも取り組む」と表明するとのこと。減税賛成、物価対策当たり前、地方への目配りも当然だろう。驚くのは自民党内で反対の多いライドシェアにも取り組むと盛り込んでいることだ。原案の段階でこれから変更もあるだろうが、まさにテンコ盛りの大盤振る舞いといった印象だ。
原案にケチをつけるつもりはない。だが、総理が経済対策を表明したのが9月26日のことだ。物価対策など5本柱を公表、10月中をメドに中身をまとめるよう関係閣僚などに指示した。その後、自民党の若手などが中心となっている勉強会が消費税率を5%に引き下げるよう提案するなど、経済対策の策定に向けた議論が党内で活発化した。規模をめぐっても10兆円〜20兆円まで大型の経済対策を希望する意見が党内外で相次いだ。こうした雰囲気に水をさしたのが党政務調査会の報告書だ。「新たな総合経済対策に向けた提言」と題された同報告書には、減税という言葉が盛り込まれなかった。これを機に経済対策に対する期待感は一気に萎み、岸田総理の指導力やヤル気に関する疑念、インフレに悩む国民生活に対する理解力不足など、改めて支持率低下を加速する要因となっていた。総理が当初描いていた臨時国会での冒頭解散説も雲散霧消、退陣説が浮上するなど波乱の様相を見せていた。
これは総理の最後の足掻きだろうか。これまでの流れを一変させるような原案が報道された。おそらくリークベースの記事だろう。最大の論点である減税が再浮上した。経済対策をめぐるこれまでの経緯が、あたかもシナリオの一幕であったかのような印象をうける。悪い流れをあえてつくり、最後の最後に総理がひっくり返す。悪く解釈すれば、総理の指導力を見せつけるための演出ともみえる。ライドシェは総理の天敵ともいうべき菅前総理が推進している政策である。これも取り込もうとしている。まるで来年の総裁選挙を意識しているかのようだ。今回の経済対策は国民生活を守るための対策なのか、政権を維持するための妥協策なのか。国民の目には明らかに後者のようにみえる。良い悪いは別にして安倍元総理には、憲法改正など“信念”があった。岸田総理にはそれがない。右に左に揺れながら、最後にいつも政権維持の本心が露呈する。支持率が下がるわけだ。
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