【シリコンバレー時事】米実業家イーロン・マスク氏がツイッターを買収してから27日で1年。社名を「X」に変更し、ロゴマークも刷新した。赤字体質脱却へ大規模リストラやサービス見直しなどの「マスク流」経営改革を進めたが、逆に偽情報拡散の懸念が高まり、広告収入は激減。収益改善の見通しは立っていない。

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 ◇戻らない広告収入

 「広告主に対する圧力で、米国内の広告収入は60%減のままだ」。マスク氏は9月、反ユダヤ主義的な投稿の増加を指摘したユダヤ人の権利保護団体をこう非難した。

 「言論の自由推進派」を自称し厳格な投稿管理に批判的だったマスク氏。440億ドル(当時の為替レートで約6兆4000億円)を投じてツイッターを買収した後、誤情報や憎悪表現の氾濫を心配した多くの広告主が離れた。

 マスク氏は経費削減にも着手。7500人いた従業員を1500人程度に絞り込んだ。売上高の9割を広告に依存する現状からの脱却を狙い、有料会員サービスの拡充も図ってきた。

 ◇混乱と反発

 ただ、改革は混迷している。著名人らのアカウントに無償付与してきた本人確認済みを示す「認証バッジ」を、有料会員特典に変更したが、これを悪用した成り済ましが横行。一時受け付け中断に追い込まれた。

 今年7月には、1日に閲覧できる投稿数に制限をかけた。企業などが人工知能(AI)の学習に使うため、投稿を収集する動きに歯止めをかける目的だが、それまで無制限で閲覧できただけに、利用者の反発を招いた。

 ◇偽情報に懸念

 マスク氏が「ツイッター」の社名を消滅させたのは今年4月。7月にはシンボルだった青い鳥のロゴもXに差し替えた。SNSや金融、求人などあらゆるサービスを提供する「万能アプリ」への進化が狙いだ。

 しかし、同氏が買収資金として借りた130億ドルがX社の負債となり、利払いが業績を圧迫。経営の重荷となっている。

 こうした中、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの武力衝突が発生。Xでも偽の情報や動画の投稿が広がり、これを問題視した欧州連合(EU)が調査を本格化させた。法律違反が認められれば、多額の制裁金支払いを命じられる恐れがある。マスク氏は再び正念場を迎えている。