氏兼敬子
- 1.9%減と21カ月連続マイナス-名目1.0%増、所定内給与は1.6%増
- 先行した物価に賃金も徐々に追い上げつつある状況を確認-大和総研
物価の変動を反映させた昨年12月の実質賃金は、前年比のマイナス幅が2カ月ぶりに縮小した。基本給に当たる所定内給与や賞与など特別給与の増加が名目賃金を押し上げ、実質賃金の改善に寄与した。
厚生労働省が6日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年同月比1.9%減と、前月の2.5%減から改善した。マイナスは21カ月連続。市場予想は1.5%減だった。一方、名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は1.0%増と24カ月連続で増加。賃金の基調を把握する上で注目される所定内給与は1.6%増と7カ月ぶりの高い伸びとなった。賞与など特別に支払われた給与は0.5%増えた。
エコノミストが注目しているサンプル替えの影響を受けない共通事業所ベースの名目賃金は1.5%増。所定内給与は2.2%増で、同ベースでの公表が開始された2016年以降で最高だった10月、11月の水準を維持した。一般労働者(パートタイム労働者以外)の所定内給与は2.0%増だった。
インフレに賃金の上昇が追いついていない状況は続いているものの、所定内給与の増加が続いていることを示す今回の結果は、2%の物価目標達成に向けた確度が「少しずつ高まっている」という日銀の見方を補強する材料になり得る。日銀は正常化の条件として賃金と物価の好循環を掲げており、今後本格化する春闘での賃上げ動向が鍵を握る。
大和総研の久後翔太郎シニアエコノミストは、「これまで物価先行で賃金が追いつかない状況だったが、徐々に賃金も追い上げつつある状況が確認できた内容だ」と指摘。2024年の春闘の賃上げ率は23年を上回ると見込んでいるとした上で、日銀がデータが着実にそろう4月にマイナス金利解除とイールドカーブコントロール(YCC)の撤廃を行うという従来の見通しに変化はないとしている。
岸田文雄首相は施政方針演説で、デフレからの完全脱却へあらゆる手段を尽くして「物価高を上回る所得」を年内に実現するとの決意を表明した。連合は、基本給を底上げするベースアップを3%以上、定期昇給分を含めて5%以上の賃上げを求めている。
実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は昨年12月に前年比3.0%上昇と、伸び率は前月から縮小した。政府の物価高対策に伴うエネルギーの下落に加え、食料品の伸び鈍化も押し下げ要因となった。
一方、総務省が同日発表した家計調査によると、昨年12月の消費支出(2人以上の世帯)は物価変動を除いた実質ベースで前年比2.5%減と、10カ月連続で前年を下回った。減少率は市場予想(2.0%減)よりも大きかった。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、「足元の消費はさえないというのが率直なところ」と指摘。春闘への影響については「春闘のテーマが景気そのものというよりは物価や人手不足にいっているので、あまり消費・景気がさえないところで悪い影響が今のところは出てこない」との見方を示した。
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(チャートとエコノミストのコメント、家計調査の結果を追加して更新しました)