氏兼敬子、横山恵利香

  • ドルベースでドイツが3位浮上へ、高成長のインド猛追-IMF試算
  • 日本の一人負け、産業立て直しが喫緊の課題-第一生命経研・熊野氏

 内閣府が15日発表する日本の国内総生産(GDP)では、日本が2023年に名目・ドルベースでドイツに抜かれ、世界3位から4位に後退したことが確認される見通しだ。円安などが大きく影響したとみられるものの、国際社会における存在感の低下を懸念する声も聞かれる。

 日本経済は昨年7-9月期に大きく減速した後、10-12月期は前期比年率1.1%のプラス成長が見込まれているが、通年ではドイツに届かないことがほぼ確実。国際通貨基金(IMF)は10月公表の経済見通しで、日本の名目GDPを約4兆2300億ドル(日本銀行公表の平均為替レートで約595兆円)と予想。これに対し先月発表されたドイツは約4兆1200億ユーロで、ドル換算では同約4兆5000億ドルになる。

 いずれは世界一の経済大国になると言われたこともあった日本にとって、ランキングの後退は先行きに対して新たな不安を投げかけることになるかもしれない。ただ、今のところ日本が中国に追い越された10年当時ほど悲観的なものでもない。GDPの日独逆転の一因として円安の影響が大きいからだ。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、為替要因に言及した上で、13年の大規模金融緩和以降の円安が「日本のドル表示の経済規模を小さくしている」と指摘。ドイツに抜かれたというよりも「日本の一人負け。実質ベースであれほど苦しんでいるドイツを下回ってしまっている」と語った。

 日本の名目GDPは12年に6兆2700億ドルだった。IMFの見通しに基づくと、円換算では23年までに12%余り成長したことになる。

 世界3位に浮上するドイツも、インフレやエネルギー価格の高騰、成長鈍化などの問題を抱えており、日本が課題を克服するためのモデルとはなりにくい。両国は高齢化、天然資源の乏しさ、自動車をはじめとした輸出に依存するなど共通点が多い。

 特に日本では1995年をピークに生産活動の中心を担う15-64歳の生産年齢人口は減少しており、労働力不足が鮮明となっている。  

 対照的にインドの人口は23年に中国を抜いて世界一となった。人口の3分の2余りが生産年齢で、26年に名目GDPで日本を上回り、27年にはドイツも抜いて米中に次ぐ世界3位の経済大国に浮上するとIMFは試算する。

 ゴールドマン・サックス・グループのインド担当エコノミスト、サンタヌ・セングプタ氏はリポートで、人口動態の良好な状況がインドの潜在成長率をさらに高めるとの見通しを示した。労働参加率の向上や労働力の生産的な活用が課題としながらも、「インドの膨大な人口は明らかにチャンスをもたらす」とみている。

 インドは人口減少や高齢化への対応に苦慮する他の多くのアジア諸国よりも経済活動において有利な状況にある。企業が中国を巡る地政学的リスクを軽減しようとする中、インドが規制緩和を進め、関税を引き下げ、より多くの投資を呼び込めば、中国をさらに追い上げることができるだろう。

 日本では株式相場が堅調を持続し、日本銀行が金融政策の正常化に踏み出す見通しなど、新たな夜明けの兆しも見える。ただ、成長力の回復に向けては産業構造の見直しや生産性の向上が喫緊の課題だ。  

 熊野氏は、日本がドイツやインドに逆転されるのは単なる通過点の話とした上で、「明らかな国力の低下だ。国の産業を立て直さないといけない」と指摘。生産・研究開発拠点の国内回帰や新たな構築で技術集約的な産業を定着させる施策、1人当たりの生産性向上へ成長戦略に資源を重点配分するなどの政策対応が必要とみている。

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