ことしの春闘は13日が集中回答日です。経済の好循環に向けて持続的な賃上げを実現できるかが焦点となるなか、自動車や電機、鉄鋼などの大手では満額を含む高い水準の回答が相次いだほか、中には労働組合の要求額を上回るケースもありました。
目次
大手自動車メーカー
【トヨタ自動車 月額2万8440円(最も高いケース)】
トヨタ自動車は賃上げとボーナスについて、組合の要求通り満額回答しました。
トヨタの労働組合は「職種別」や「資格別」に賃上げ要求額を示し、最も高いケースでは月額2万8440円の賃上げを求めたほか、ボーナスにあたる一時金は過去最高の月給7.6か月分を要求していました。
満額回答は4年連続です。
トヨタの東崇徳 総務・人事本部長は会見で「今回の満額回答は10年先を見据えた人への総合投資だと考えている。余力がない職場に対してはしっかりと手当てをしていきたい」と述べました。
一方、トヨタの労働組合の鬼頭圭介 執行委員長も記者会見し、「過去最高の要求をしたが、真摯(しんし)に真正面から頑張りを受け止めてもらい満額回答をいただけたのは本当にありがたい。これから10年先の働き方を作っていこうという形でスタートした労使交渉で、未来に向けた覚悟もきちんと受け止めて評価いただけたと思う」と述べました。
【日産自動車 月額1万8000円】
日産自動車は、組合の要求どおり、1人あたり平均で月額1万8000円の賃上げで満額回答しました。
去年の春闘での月額1万2000円の賃上げを上回り、いまの賃金体系が導入された2005年以降で最も高い水準です。
また、一時金についても月給の5.8か月分で満額回答しました。
【SUBARU 月額1万8300円】
SUBARUは、月額1万8300円の賃上げの要求に対し、満額で回答しました。
いまの形で要求するようになった2020年以降で最高となる水準で、一時金も6か月分で満額回答となりました。
【三菱自動車工業 1万7500円】
三菱自動車工業は、2万円の要求に対して1万7500円の賃上げで回答し、一時金については、月給の6.3か月分の要求に対して、6か月で回答しました。
ことしは満額回答を見送っています。
【ホンダ 総額で月額2万円】
ホンダはベースアップと定期昇給の相当分をあわせた総額で月額2万円の賃上げ、ボーナスは月給の7.1か月分で満額回答しています。
いずれも1989年以降で最も高い水準となります。
(12日までに回答)
【スズキ 10%以上】
スズキは、総額で月額2万1000円の賃上げの要求に対し、要求額を超える10%以上の賃上げを行うと回答しました。
賃上げの水準は過去最高となっています。
ボーナスは、月給の6.2か月分で満額回答しています。
(12日までに回答)
【マツダ 月額1万6000円】
マツダは、いまの人事制度が始まった2003年以降で最大となる月額1万6000円の賃上げ、ボーナスについても月給の5.6か月分で満額回答しています。
(12日までに回答)
大手電機メーカー
【日立製作所 月額1万3000円】
日立製作所は、組合の要求どおりベースアップとして月額1万3000円の賃上げで満額回答しました。
去年の春闘での月額7000円の賃上げを上回り、今の要求方式となった1998年以降で最も高い水準となりました。
満額回答は3年連続で、ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率は、平均で5.5%となっています。
田中憲一 常務は回答のあと開いた記者会見で、「物価の伸びは鈍化しているものの高い水準が継続している。日本経済のデフレ脱却に向け、ことしが重要な転換点だと認識した」と述べました。
その上で「事業計画を達成し、会社を成長させる最大の源泉は人材であり、会社としては成長によって拡大した収益を従業員に還元し、さらなる成長につなげていきたい」と述べました。
【パナソニックホールディングス 月額1万3000円】
パナソニックホールディングスは、ベースアップ相当分として組合の要求どおり月額1万3000円の賃上げで2年連続の満額回答となりました。
去年の春闘での月額7000円の賃上げを上回り、1998年以降で最も高い賃上げの水準だということです。
【三菱電機 月額1万3000円】
三菱電機はベースアップ相当分として組合の要求どおり月額1万3000円の賃上げで満額回答しました。
2年連続の満額回答で、去年の春闘での月額7000円の賃上げを上回りました。
いまの要求方式となった1998年以降で最も高い賃上げの水準だということです。
【富士通 月額1万3000円】
富士通も組合の要求どおりベースアップ相当分として月額1万3000円で満額回答しました。
去年の春闘での月額7000円の賃上げを上回り、2年連続の満額回答となりました。
1998年以降で最も高い賃上げの水準です。
【東芝 月額1万3000円】
東芝は組合の要求どおりベースアップ相当分として月額1万3000円で満額回答しました。
去年は、要求額の7000円に対し、福利厚生で使えるポイントを含めての満額回答でした。
おととしから3年連続の満額回答で、1998年以降で最も高い水準だということです。
【NEC 月額1万3000円】
NECは組合の要求どおりベースアップ相当分として月額1万3000円で満額回答しました。
去年は福利厚生で使えるポイントを含めて月額7000円でしたがこれを上回りました。
2022年から3年連続の満額回答で、1998年以降で最も高い水準だということです。
【シャープ 月額1万円相当】
シャープは具体的な金額を明らかにしていませんが、去年の月額7000円を上回る賃上げを行う方針を組合側に伝えたということです。
要求額の1万3000円に対し、組合の試算では月額1万円の賃上げに相当するということです。
シャープは液晶パネル事業の不振から2年連続で最終赤字に陥る見通しとなっています。
鉄鋼大手
【日本製鉄 月額3万5000円 要求を上回る賃上げ】
日本製鉄は労働組合が要求した月額3万円を上回るベースアップ相当分として月額3万5000円の賃上げを行うと回答しました。
過去最高の水準で、定期昇給などを合わせると賃上げ率は14.2%となっています。
三好忠滿 人事労政部長は回答のあとに開いた記者会見で、「国内外でさまざまな課題に取り組んでいるが、課題は高度化していて、有為な人材を確保することや社員全員が活躍することが非常に大事だ」と述べました。
その上で「従業員の処遇水準は国内の製造業のトップクラスの水準になると考えている。従業員には一流の水準にふさわしい一流の実力をつけて、生産性向上などに最大限発揮することを強く望んでいる」と述べました。
【JFEスチール 月額3万円】
JFEスチールは組合の月額3万円の賃上げ要求に対し、満額で回答しました。
定期昇給の相当分を合わせると賃上げ率は12.5%となります。
【神戸製鋼所 月額3万円】
神戸製鋼所も月額3万円の賃上げ要求に満額で回答しました。
定期昇給を合わせると賃上げ率は12.8%となります。
大手機械メーカーでは、三菱重工業、川崎重工業、IHIがいずれもベースアップに相当する月額1万8000円の賃上げで、それぞれ満額回答しました。
小売 外食 食品・飲料
【キリンホールディングス 月額1万3000円】
飲料大手のキリンホールディングスは、ベースアップとして月額1万3000円で満額回答し、定期昇給分をあわせて平均7.5%程度の賃上げで妥結しました。
満額回答は会社として初めてとなります。
【ニトリ 月額2万2389円】
家具日用品大手のニトリホールディングスは、子会社のニトリの総合職社員を対象に、ベースアップを含む平均6%、1人あたり平均月額2万2389円の賃上げを行うことで妥結しました。
21年連続のベースアップとなります。
パートやアルバイトの時給は一人あたり平均67.3円の増額で妥結し、11年連続の引き上げとなります。
【イオン 4.85%以上】
流通大手のイオンで正社員を対象に、ベースアップと定期昇給を含めて去年のグループ平均の4.85%以上で賃上げする方針を決めたほか、グループで働くパートなど非正規の労働者およそ40万人を対象に、時給を平均でおよそ7%引き上げる方針を決めています。
(12日までに回答)
【モスフードサービス 8%程度】
ハンバーガーチェーンを運営するモスフードサービスは定期昇給とベースアップをあわせて平均で8%程度の賃上げを行うことを決めました。
会社としてベースアップを行うのは初めてだということです。
(12日までに回答)
【松屋フーズホールディングス 10.9%】
牛丼チェーンなどを運営する松屋フーズホールディングスは、組合との交渉を例年より前倒しして去年12月に実施し、初任給の引き上げのほか、ベースアップと定期昇給をあわせて過去最高の水準となる10.9%の賃上げで妥結しました。
(12日までに回答)
【ゼンショーホールディングス 12.2%】
牛丼チェーンの「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスは、ベースアップと定期昇給をあわせて、組合の要求を上回る平均12.2%の賃上げを行うことで妥結しました。過去最高だった去年の9.5%をさらに上回る水準です。
(12日までに回答)
【サントリーホールディングス 月額1万3000円】
サントリーホールディングスは初回の交渉でおよそ7%の賃上げで妥結し、ベースアップは月額1万3000円と直近の20年間で最も高くなりました。
(12日までに回答)
【サッポロビール 一律1万2000円】
サッポロビールはベースアップとして一律1万2000円で満額回答し、定期昇給分も含めると賃上げ率は6.4%で、2年連続の賃上げとなります。
(12日までに回答)
【味の素 月額1万4000円】
味の素は、初回の交渉でおよそ6%の賃上げで妥結し、このうちべースアップの金額は1人あたり平均で月額1万4000円と過去3番目に高い水準となりました。
(12日までに回答)
ことしの春闘は、長年続くデフレ脱却に向け、30年ぶりの高い水準の賃上げとなった去年に続き、持続的な賃上げを実現させられるかが焦点となっています。
こうした中、大手企業の間では去年以上の高い賃上げ水準で早期に決着する動きが相次いでいて、去年を上回る4%台の賃上げ率になるという見方も出ています。
専門家「賃上げ率 去年上回る4%台か」
大手企業の間で高い賃上げ水準の回答が相次いだことしの春闘について、第一生命経済研究所の熊野英生 首席エコノミストは、およそ30年ぶりの高い賃上げ率となった去年を上回る4%台の賃上げ率となる見方を示しました。
このなかで熊野氏は「4%台に乗るような高さが期待される。満額回答以上も相次ぎ、経営者の側に、より高い水準を示し有利な採用環境を作りたいという思惑が予想外に強く働いたと思う」と述べました。
一方で、中小企業への賃上げの広がりについては「経営者が業績が悪くても人材確保のため人件費を上げる勇気を持つことができるかだ。これまでは価格転嫁で客離れするマイナスの面があったが、賃上げが広がり消費にお金が回ることで、今までよりも中小企業も値上げがしやすいのではないか」として、人件費の増加を価格に転嫁できる環境が重要だと指摘しました。
また、今月18日からの日銀の金融政策決定会合を控え、金融市場では近く、日銀がマイナス金利を解除するのではないかという見方が出ています。
これについて、熊野氏は、「春闘のよい結果で経済全体の好循環への期待が高まる。日銀にとっては、デフレ脱却の決め手になるような大きな判断材料になるのではないか」と述べ、大規模な金融緩和策からの転換を後押しするという見方を示しました。
経団連 十倉会長「非常に心強く思っている」
経団連の十倉会長は、13日に集中回答日を迎えたことしの春闘では去年より高い水準の賃上げで決着する動きが出ていることについて、「非常に心強く思っている。去年を上回ることはほぼ確実になったと思うので、どこまで上積みできるか非常に楽しみにしている」と述べました。
連合 芳野会長「これからが勝負どころ」
連合の芳野会長は、記者団に対し「今のところ、かなり昨年を上回る成果が出ている。中小・小規模事業所や、地方、非正規労働者の賃金をどれだけ底上げできるかがことしのカギで、これからが勝負どころなので、気を引き締めて、大手企業に続くいい結果が出るよう対応していきたい」と述べました。
中小企業の交渉が焦点に
春闘はこのあと中小企業などで交渉が本格化しますが、この勢いが広がり持続的な賃上げにつながるのかが焦点となっていきます。
しかし、地方の中小、中堅企業の中には持続的な賃上げは難しいという企業も少なくありません。
兵庫県明石市に本社に置く従業員およそ800人の中堅の精密機械メーカー「東洋機械金属」は、コロナ禍からの受注の回復で去年は2000年以降で最も高い4%の賃上げを行いました。
ことしの春闘では去年を上回る6%あまりの賃上げ要求が組合から出されていますが、社長の田畑禎章さんは大手企業のように思い切った賃上げには踏み切れないといいます。
田畑社長は「大手はブランド力も資金力もあるが、すべてのメーカーが同じように賃上げできるわけではない。すでに満額回答を出しているところもあるがそんなに簡単ではない」と話していました。
背景にあるのは経済環境の変化です。
中国経済の不況などが原因で売上のおよそ7割を占める輸出事業が大きな打撃を受け、今年度の経常利益は4億円の赤字になる見通しです。
その上、製品の元となる鉄などの原材料の多くを海外から輸入しているため円安などの影響で価格が高騰し、光熱費を含めたコストはこの1年半ほどで25%あまり増加しました。
会社では取引先に対して文書を作って製品価格の値上げをお願いしてきましたが、価格転嫁できたのは1割ほどにとどまり増加したコストの一部しか吸収できていません。
また、人件費を価格に転嫁するには取引先からの理解が得られにくく、これ以上の製品価格の値上げは難しいのが現状です。
こうした状況を打開しようとことし1月には部品を自動管理して製品の修理などにきめ細かく対応するサービスセンターを新設し受注増加を目指していますが、賃上げの原資を確保するまでにはいたっていません。
田畑社長は「今後も価格転嫁をお願いしていきたいが、業界にはそれなりのマーケットプライスがありそれを無視して価格を上げてしまうとお客さんが離れてしまうので、すべてを転嫁するわけにもいかない。いろいろな手を打ちながらビジネスを前に進めていくしかない」と話していました。
「非正規春闘」ストライキで賃上げを訴える
春闘の集中回答日の13日、パートや派遣社員などが合同で賃上げを求める「非正規春闘」の参加者が勤務先の15の企業でストライキを始め、大幅な賃上げを訴えています。
「非正規春闘」は労働組合がない企業などでパートや派遣社員の人たちなどが集まりそれぞれの勤務先に賃上げを求めようと去年から始まった取り組みです。
ことしは個人で加入できる20以上の労働組合などが勤務先120社に対し、一律10%以上の賃上げを要求していて、労使間で交渉を行ってきました。
これまでに一部の企業から賃上げの回答が寄せられているということですが十分な賃上げに応じない企業も多く、15社のおよそ500人が13日から今月末までの間でストライキを始めました。
13日はおよそ50人が交渉先の都内の会社の前に集まり「非正規労働者の生活は圧迫されている。賃上げがないのはおかしい」と声をあげました。
非正規雇用の人は去年は国内で2100万人あまりと労働者全体の37%にのぼり、大手企業で相次ぐ高い水準での妥結の流れを非正規雇用の人たちの賃上げにつなげられるかが注目されます。
学習塾で講師として働く50代の男性は「給料が上がることなく過ごしてきて物価高で生活に不安を感じている。今のままだと定年で再雇用になればさらに賃金が下がることになるので闘っていきたい」と話していました。
「非正規春闘」を呼びかける総合サポートユニオンの青木耕太郎 共同代表は「大企業では早期、満額の賃上げといわれているが、非正規は賃上げの波が広がっていない印象だ。非正規の多くは職場に組合がない人が多く1人からでも賃上げに参加する枠組みが重要だ」と話していました。
「非正規春闘」では14日に無料の電話相談を開く予定で0120-333-774で午後5時から9時まで受け付けます。