横山桃花
- マイナス金利続き利息への意識低下、延滞増加などリスクと専門家
- 春闘賃上げ率が33年ぶり高水準、返済の負担増は限定的との見方も
沖縄県に住む大学4年生の安部弘祐さんは、日本学生支援機構(JASSO)から給付型と貸与型の奨学金を総額で約680万円借りている。金利上昇が返済に影響することを取材を受けるまで意識しておらず、「金利について知った以上はなるべく早く返したい」と話す。
来春卒業予定の安部さんは、奨学金の返済計画を最低でも月3万円とし、余裕があれば6万円にする考えだが、「新卒の手取りは16万から17万が平均と考えると相当厳しい」と語る。返済の負担を見込み、給与の増加が期待できる企業を中心に就職活動を続けているという。
安部さんのようにJASSOから有利子奨学金を受けている学生は、2022年度に66万5000人。同機関の調査では、大学生の2人に1人は何らかの奨学金を利用している。JASSOの固定金利は過去2年で2倍に上昇し、学生たちは金利方式や繰り上げ返済など返済計画の再検討に動き始めている。若年層の金銭的負担が増えれば、消費を冷やす要因になり、長期的には将来への不安から少子化を助長する恐れもある。
給与や物価、住宅ローンに迫り来る変化の波-マイナス金利解除が契機
JASSOの第2種奨学金の固定金利は、日本銀行によるイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)修正以前の22年11月の0.605%から0.94%に上昇し、変動金利は0.077%から0.4%まで引き上げられた。利息には3%の上限が設けられているものの、今後市場金利の上昇に伴い基準となる財政融資資金の利率が上がれば、利息負担はさらに重くなる。
高等教育学などが専門の桜美林大学の小林雅之教授は、「金融知識がない人にとっては、1%の金利変動がどれほど影響をもたらすか全然見当がつかない」と指摘する。長く続いたマイナス金利の影響で奨学金の利息は意識されてこなかったとし、金利方式を適切に選択する知識を持たないことが延滞の増加などのリスクにつながるとの見方を示す。
日本の奨学金制度での利息負担は、米連邦政府による奨学金の利率5.5%と比べれば低い。一方、返済が不要な給付型が浸透してこなかったため、給付型が普及する米国や所得連動型が一般的な英国やオーストラリアに比べて、ローン負担の課題は残ると小林教授は指摘する。
節約志向
一橋大学1年生の米沢康佑さんは、家計だけでは家賃や学費を賄えず、4年間で480万円を有利子で借りる予定だ。「元々返すことが不安だったが、利率の上昇でさらに不安になってしまった」と話す。卒業予定の27年に固定金利が現在の0.94%から1%上がると仮定すると、返済総額は55万円ほど上乗せされる。
奨学金返済への不安から、米沢さんは節約志向を徹底する。短時間で多く稼げる学習塾でアルバイトをし、月平均4万円から5万円ほど生活費を稼ぐ。食費を抑えるため、昼食は学食で285円のカレーを食べることが多いという。3年後の貸与終了後に決める金利方式を、金利上昇局面でどちらを選択すべきか検討を始めた。
SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人主任研究員は、日銀政策金利の0-0.1%への引き上げによって上積みされる利息金額自体は大きくはないが、「若年層にとっての所得に対するインパクトは大きい」とみる。収入に対する奨学金返済の割合が増えることで消費に悪影響が出る可能性もあるという。
その一方で、高水準の賃上げ率となっている今年の春闘の「恩恵は若者に及んでいる」とした上で、足元の賃上げを加味すると奨学金返済の負担増は限定的との見方も示した。連合が15日発表した第1回回答集計で、平均賃上げ率は5.28%と33年ぶりの高い伸びとなり、22日発表の第2回集計でも5.25%と5%台を確保した。
安部さんは将来結婚することを考えた場合、「結婚後にパートナーや子供に、経済的な負担が自分の過去の負の遺産として影響してしまうのはすごく嫌だ」という。「30代後半になると子供が小学校に行くと思う、 その頃までにはなるべく返済するお金はなくしておきたい」と話す。