読売新聞社とNTTは8日、生成AI(人工知能)が急速に拡大する中、人間の自由と尊厳が維持された言論空間を確保するため、「生成AIのあり方に関する共同提言」を発表した。選挙と安全保障分野の生成AI利用を制限する立法措置を含め、制度と技術の観点からAIの規律と活用の両立を求めたことが柱だ。

生成AI 対立でなく協調…編集局長・前木理一郎

 提言は生成AIについて、インターネットを介して誰もが利用でき、一定の労働生産性向上が期待できる点を利点とした。一方、現状では人間が制御しきれない技術だと指摘し、生成AIが「自信たっぷりにウソをつく」状態と、人間が「あっさりとだまされる」状態に陥りやすく、正確で価値ある情報を提供するジャーナリズムや学術研究が崩壊する危険性を訴えた。

 その上で、生成AIを適切に制御しなければ、「最悪の場合、民主主義や社会秩序が崩壊し、戦争などが生じる」として、「規律と活用を両立する方策を技術・制度双方の観点から実現し、(生成AIを)適正な『道具』としていく必要がある」と強調した。

 技術面では、信頼性のある情報の識別技術として、発信者情報を電子的に付与する「オリジネーター・プロファイル(OP)」の有用性を明記した。

 制度面では、特にリスクを警戒すべき領域として選挙と安全保障を挙げ、「無条件な(生成AIの)適用は甚大かつ不可逆な被害が懸念される」として、法規制を「 躊躇ちゅうちょ せず実施すべきだ」とした。著作権など知的財産権の保護のあり方の適正化にも言及した。

 法整備を含むルール作りについては、「戦略性のある体系的なデータ政策の整備には長い時間と 紆余うよ 曲折をたどることも予想される」との認識を示した。そこで、「戦略的・体系的なデータ政策」を長期的課題と位置づけ、短期的には「部分的な規制」と「実効的な施策」に取り組むよう求めた。

 対処が急がれる課題としては、過激な情報で関心を引き付ける手法「アテンション・エコノミー(AE)」の弊害が、生成AIによって増幅される問題を指摘した。提言では、この問題を「AI×AEの暴走」と表現し、「社会の基本的価値である自律的自由や個人の尊厳をすでに 毀損きそん しており、その回復が急務だ」との危機感を強調した。

 人間の自由と尊厳が維持された言論空間を確保するには、利用者が特定のAIに依存せず、多様なAIが同列に存在し、「利用者がそれらを自律的に選択・参照できる状態の確立」が必要だとした。

 提言は、読売新聞社とNTTが慶応大サイバー文明研究センターと協力して2023年秋から有識者を交えて検討を重ねてきた。今後も生成AIに関する検討と提言を続けていく。