名前は知っているが展覧会を見たこともなければ、作品に直接触れたこともない。この人には常に“世界の”という形容詞がつく。何がそんなに凄いのか、日曜日(21日)に放送されたEテレの日曜美術館、「モンスター村上隆、いざ京都!」をみてその凄さを垣間見た気がした。日本の伝統美にマンガやアニメと言ったポップカルチャーが融合されたエンターテイメントが軽やかに伸びやかに、巨大な画面に展開されているのだ。埼玉県三芳町にあるアトリエは2700坪、スタッフは総勢160人にのぼる。これはアトリエというより美術品製作工場だ。4交代で24時間稼働しているという。村上曰く「作品の65%は頼まれて作っている」のだそうだ。言ってみれば受注生産体制。コンピューターグラフィックスを多用して作品のパーツが作り出される。AIも組み込まれている。もちろん作品の根底にあるのは村上のアイデアだ。村上の頭脳に閃いたアイデアが、コンピューターと人手を駆使しながら作品に仕上がっていく。これは芸術の未来の先取りかもしれない。
京都市京セラ美術館の依頼は、「華やかな京都の歴史の裏でうごめく“もののけ”を描いてほしい」というもの。権力の中枢を担った京都ならではの発想だ。試行錯誤の末に村上がたどり着いたコンセプトは、「洛中洛外図屏風」や「風神、雷神」、「四神」といった日本の伝統美を巨大作品の構図に取り入れながら、これを換骨奪胎して軽やかで明るく色彩に富んだポップな芸術作品に作り変えていくことだ。言ってみれば日本の伝統美に手を加えて、現代風のエンターテインメント作品に仕上げている。これは一種のオマージュだろう。洛中洛外図屏風屏風では空中に雲が書き加えられ、雲の中には目立たないように無数の髑髏が書き込まれている。おどろおどろしさに対抗するように、巨大画像の所々に村上が作り出したポップ系のアイテムが配置される。少年時代マンガやアニメが大好きだった村上は、日本が世界に誇るオタク文化と芸術の境目を取り除いた。伝統作品のオマージュで新しい芸術を生み出している。
作品をよく見るといたるところに“重層性”が見られるという。過去の歴史に現在と未来が重ね合わされているのだ。それだけではない。村上は美術展を成功させるためにふるさと納税を利用するという突飛なアイデアを取り入れた。海外の美術展は美術館が運営のすべてを取り仕切る。アーティストは作品の制作に集中できる。ところが日本の場合は、美術館の予算とスタッフが圧倒的に不足している。アーティストが運営にも関わらないと展覧会が開けないというのだ。新しい手法として出品作品のカードを作り、ふるさと納税の返礼品にしているのだ。村上の師匠に当たる辻惟雄(つじ・のぶお、美術史家)はこの美術展を観終わって言う、「アーティストは絶望的な時代を肥やしにして太ることができる」。アーティストでない庶民はどうすればいいのか?とりあえず村上のさらなる飛躍を期待しよう。そしてできたら京都へ行こう!
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