堀江政嗣、Supriya Singh

  • トヨタは7車種で不正、ヤリスクロスなど現行3車種の生産一時停止
  • 「心よりおわび」とトヨタの豊田会長-影響は限定的とアナリスト

国土交通省は3日、トヨタ自動車ホンダなどから認証試験で不正があったとの報告を受けたと発表した。同省は4日、トヨタ本社(愛知県豊田市)へ道路運送車両法に基づく立ち入り検査を実施する。

  発表資料によると、5月末までに2社のほかマツダヤマハ発動機スズキを合わせた5社から型式指定申請における不正行為が行われていたとの報告があった。トヨタは調査を継続中という。

  トヨタとホンダという業界の最有力企業でも問題が発覚したことで、不適切な行為が業界全体で幅広く行われてきたことが浮き彫りとなった。

  ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の吉田達生アナリストは不正が続く背景について、開発業務が煩雑化する中で自動車メーカー側に「工数を増やさない」という動機があり、正規の手続きからの逸脱や歪曲した解釈を招き不正に至るのではないかと指摘する。約2カ月も全面操業停止となったダイハツとは状況が異なり、日本経済への影響は限定的との考えを示した。

  国交省は5社に立ち入り検査を実施する。不正行為の事実関係などの確認を実施する予定で、基準適合性が確認されるまで不正のあった車種の出荷停止などを指示した。これまでトヨタグループのダイハツ工業などで大量生産に必要な「型式指定」の認証を巡る不正が明らかになっており、同省が各社に確認と報告を求めていた。

Toyota Bets on Alternate-Fuel Engines in an Electric Future
トヨタのロゴPhotographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

性能に問題なし

  トヨタは同日の発表で、 不正報告の対象となったのが生産中の3車種(カローラフィールダー、アクシオ、ヤリスクロス)と生産終了した4車種(クラウン、アイシス、シエンタ、レクサスRX)だと明らかにした。

  発表を受けてトヨタ株の下落幅が拡大。一時前日比2.4%安の3321円まで値を下げた。終値は3341円だった。

  グループ企業に続いて自社で問題が判明したことについて、都内で会見した豊田章男会長はトヨタグループの責任者として「すべてのステークホルダーに心よりおわびする」と述べた。トヨタは調査結果を踏まえ、現在、日本国内で生産中車種について3日からいったん出荷・販売を停止して適切な対応を進めていくとした。

  対象の車両は社内での徹底的な検証で法規に定められている性能に問題ないことを確認しており、ただちに使用を控える必要はないとした。ホンダとマツダも類似の見解を示した。

  トヨタによると、出荷停止で岩手県と宮城県の2工場の計2ラインの操業に影響が出る。両ラインの年間生産台数は約13万台という。

  今月末までに調査を終了し、その後国交省の指示を踏まえながら再発防止策を取りまとめた上で、出荷再開に関する同省の判断を待つことになる。出荷停止により、2次や3次の下請け企業を含めると1000社以上に影響が出るとし、補償などに関する協議を今後進めていくという。

制度の整理を

  豊田会長は、トヨタは年末ごろまでに認証項目についてそれぞれの工程で必要とされる作業を標準化する計画だと述べた。モデルチェンジなどに伴い自動車メーカーにおける負荷は増加する一方だとも指摘し、認証関連で不必要なものについては当局と「整理整頓することを一緒にやっていきたい」と語った。

  トヨタ以外で出荷停止の対象となるのはマツダとヤマハ発。マツダでは5車種で出力試験でのエンジン制御ソフトの書き換えや衝突試験での試験車両の不正加工があり、現行車種の「MAZDA2」と「ロードスターRF」を出荷停止とした。

  ヤマハ発では二輪車で不適正な条件での騒音試験の実施などが発覚。現行車種の「YZF-R1」の出荷を停止している。

  ホンダとスズキの対象は生産を終了した車種のみだったため、出荷停止の措置は取っていない。

  ホンダの三部敏宏社長は法規を守るのは「絶対的なこと」と考えていると説明、今後は遵法精神を再度認識して認証業務にあたっていきたいと述べた。一方で、悪質性や認証制度上の問題はなく、担当者の処分や「経営陣の責任」は考えていないとした。業務のデジタル化を進め、試験結果が報告書に自動的に反映され、人が介在しないシステムの開発を来年度にかけて進めるとした。

  BIの吉田氏は出荷停止措置について企業規模に比して台数が少ないことなどからサプライヤーへの補償などを含めても3社の経営の屋台骨を揺らぐことにはつながらないだろうとの見方を示した。

制度の根幹揺るがす

  トヨタグループでは、日野自動車が排出ガスや燃費に関してエンジン性能を偽る不正行為をしていたことが2022年に発覚。その後、 豊田自動織機やダイハツも不正を行っていたことが分かり、いずれも国交省から処分を受けた。

  トヨタの豊田会長は1月の会見でグループ企業で不正が相次いでいることを謝罪。グループが今後進むべき方向を示したビジョンを策定した上で、今後は責任者として自らグループ企業の株主総会に出席するなど関わりを強めていくと述べていた。

  林芳正官房長官は3日の定例会見で、新たに発覚した不正について、ユーザーや日本の自動車産業の信頼を損ない、かつ自動車認証制度の根幹を揺るがす行為で遺憾だと述べた。

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