Christopher Condon

  • 平均時給は前月比0.4%増、前年同月比4.1%増-共に伸びが加速
  • 労働参加率は62.5%に低下、25-54歳では02年以来の高水準に上昇

米国では5月、雇用者数が大幅に増加し、賃金の伸びも加速した。これを受け、市場では米利下げ開始時期に関する予想が後ずれした。

キーポイント
・非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は5月に前月比27万2000人増加
 ・エコノミスト予想の全てを上回る
  ・予想中央値は18万人増
 ・前月は16万5000人増(速報値17万5000人増)に下方修正
・家計調査に基づく5月の失業率は4%に上昇
 ・失業率が4%となるのはこの2年余りで初めて
 ・市場予想は3.9%
 ・前月は3.9%

  平均時給は前月比、前年同月比とも4月から伸びが加速。市場予想も上回った。前月比では0.4%増(前月0.2%増)。予想は0.3%増。前年同月比では4.1%増(前月4%増)。予想は3.9%増だった。

Surprisingly Robust US Job Growth | Employment growth exceeded all projections, while wage gains accelerated

  今回の雇用統計は、米労働市場が引き続き予想を上回り、高金利と物価高による経済への影響を弱めていることを浮き彫りにしている。ただ、この力強さによりインフレ圧力は根強く続くリスクがあり、米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策に関して慎重姿勢を強める可能性が高い。

  ウェルズ・ファーゴのチーフエコノミスト、ジェイ・ブライソン氏は「FOMC、そして金融緩和にとって非常に望ましくない内容だ」と指摘。「このデータだけ見れば、FOMCは今後数カ月、金利を据え置く可能性が高いといえる」と述べた。

  FOMCは来週に定例会合を開催する予定で、今回の雇用統計は当局者らが会合前に目にする最後の重要統計の1つとなる。来週の会合では政策金利の据え置きが広く見込まれている。政策決定が発表される12日の朝には、市場が注目する5月の消費者物価指数(CPI)が発表される。

  今年に入りインフレと雇用のデータの大半が上方向のサプライズとなってきたことから、エコノミストらは四半期ごとに公表される経済予測に特に注目する見通しだ。

  ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミスト、アナ・ウォン、スチュアート・ポール、イライザ・ウィンガー、エステル・オウ各氏はリポートで「FOMCは事業所調査が抱える測定上の問題を重大視していないように見受けられ、非農業部門雇用者数の強さにより大きく影響を受ける可能性が高い。このことは、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利下げを促し得るとする『予想外』の労働市場の弱さに、議長自身がゆくゆく直面するリスクを高める」と記した。

2つの調査

  雇用統計は2つの調査から構成される。1つは雇用者数と賃金のデータを作成するための事業所を対象とした調査もう1つは失業率を算出するための家計を対象としたより小規模な調査だ。

  家計調査でも独自の雇用者数のデータを算出している。同ベースでの雇用者数は5月に40万人余り減少し、減少幅は今年最大となった。家計調査ベースの雇用者数と事業所調査での雇用者数との乖離(かいり)が大きくなっており、エコノミストの間ではどちらが労働市場に関するより正確なシグナルなのかという議論が起きている。

  失業率の上昇は大半において、労働力として市場に復帰したものの、仕事を見つけられなかった人を反映している。仕事を失った人と離職した人の数は共に減少した。

  労働参加率は62.5%に低下し、昨年早期以来の低水準に並んだ。一方、25-54歳の労働参加率は2002年以来の高水準に上昇した。

  バイデン大統領は再選を目指す選挙キャンペーンにおいて、労働市場の強さを繰り返しアピールしており、失業率がここ2年余り4%を下回ってきたことにも触れてきた。有権者の経済に対する見方が後退し、長引くインフレが重くのしかかる中、今回失業率が予想外に上昇したことは、バイデン政権にとって新たな難題となる。

  スー労働長官代行はブルームバーグテレビジョンで、「歴史的な雇用の伸びと低水準の失業率を達成している」とし、「これはソフトランディングの定義そのものだろう」と述べた。

  5月は幅広い分野で雇用が伸びた。特に増えたのは医療や政府、娯楽・ホスピタリティーだった。またプロフェッショナル・ビジネスサービスでは今年1月以来の大幅な増加となった。

その他の詳細
・週平均労働時間は34.3時間で前月から変わらず「
・「U6」と呼ばれる不完全雇用率は7.4%で変わらず-2021年11月以来の高水準
 ・U6には、フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者や、仕事に
  就きたいとは考えているものの積極的に職探しをしていない人が含まれる
・労働力人口に加わったものの仕事を見つけられなかった人の数は21年8月以来の高水準

  統計の詳細は表をご覧ください。

原題:Strong US Payrolls and Wage Growth Push Back Bets for Fed Cuts(抜粋)

関連情報

▽米5月雇用、予想上回る27.2万人増 失業率上昇も賃金伸びは再加速<ロイター日本語版>2024年6月8日午前 2:31 GMT+9

米5月雇用、予想上回る27.2万人増 失業率4.0%に上昇

[7日 ロイター] – 米労働省が7日発表した5月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比27万2000人増で、予想を大きく上回った。賃金の伸びも再加速し、労働市場の耐性を強調する内容だった。

ロイターがまとめた予想は18万5000人増。予想レンジは12万人増─25万8000人増。5月の増加数は過去1年間の月平均(23万2000人)を上回った。ただ、3月と4月の増加数は合計1万5000人下方改定された。

失業率は3.9%から4.0%に上昇。4%割れの連続記録は27カ月で途切れた。

雇用統計が予想外に強かったため、市場では米連邦準備理事会(FRB)は当面、様子見姿勢を維持し、利下げ開始時期の決定に時間をかけることになるとの見方が広がった。

アネックス・ウェルス・マネジメントの主任エコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は「減速はここまでだ。雇用者の増加数は目を見張るものだ。FRBはこれを、経済成長をあまり心配せずにインフレ鎮静化に引き続き集中できると受け止めるだろう」と述べた。

Reuters Graphics
Reuters Graphics

雇用は広範な業種で拡大。裾野の広さは昨年1月以来の水準となった。

業種別では、ヘルスケア関連で6万8000人の雇用が創出され、全体の増加をけん引した。

政府部門の雇用者数は4万3000人増加した。レジャー・接客業は4万2000人増。そのうち半分強が飲食サービス業だった。

専門・ビジネスサービス部門では3万2000人増。

一方、百貨店や家庭用家具小売店では小幅に減少した。

時間当たり平均賃金は前月比0.4%上昇した。4月は0.2%上昇だった。前年比では4.1%上昇。4月は4.0%上昇に上方修正された。賃金上昇幅は3.0─3.5%であればFRBの2%のインフレ目標と一致するとされている。

平均週労働時間は34.3時間で変わらずだった。

コメリカバンクのチーフエコノミスト、ビル・アダムズ氏は「賃金の伸び加速は、FRBが金融緩和に着手すればインフレ圧力が再び高まる可能性があることを示している」と指摘。同時に「失業率が上昇していることで、この先賃金上昇が鈍化し、消費者需要が軟調になり、インフレが低下する可能性もある」と述べた。

Reuters Graphics
Reuters Graphics

労働力参加率は62.5%と、前月の62.7%から低下。20─24歳の労働参加が減少したことで、今年これまでに見られていた進展が反転した。ただ、25─54歳と定義される「働き盛りの年齢層」の参加率は22年ぶりの高水準を付けた。

一部エコノミストは、雇用の大幅な増加と失業率の上昇の矛盾を指摘している。マクロ研究所のシニア投資ストラテジスト、ブライアン・ニック氏は「これら2つの数字が全く異なることを示しているため、投資家もFRBも、何が起きているのか正確に把握するのは非常に困難だ」と述べた。

フェデラルファンド(FF)金利先物は、FRBが9月までに利下げに着手する確率が53%であることを示す水準にある。雇用統計発表前は約70%だった。FRBが年末までに2回の利下げを行う確率は約50%。雇用統計発表前は68%だった。 もっと見る