照喜納明美、佐々木礼奈

  • 全国の管理職集め働き方を議論、若手の昇進意欲向上目指す-丸井G
  • 新卒採用男女同率、取締役・執行役の女性比率50%目指す-LIXIL

株主総会シーズンが27日にピークを迎え、女性役員がどの程度増えるかに注目が集まっている。政府が女性役員比率の向上を呼びかける中、比率は徐々に上昇しているものの、社外からの登用が大半で、社内登用の役員に占める女性比率は依然として低い。社内での女性幹部育成が急務となっている。

  政府は昨年、プライム市場上場企業を対象に2025年をめどに女性役員を1人以上選任、30年までに女性役員の比率を30%以上とする目標を掲げた。昨年時点での全上場企業の女性役員比率は10.6%でプライム上場企業では13.4%。前年の11.4%から上昇したものの、目標達成への道のりは険しい。

  11日に政府が策定した「女性版骨太の方針2024」では、女性活躍の機運は着実に高まっているが、「女性の登用が進んでいる企業とそうでない企業があり、進捗(しんちょく)には差異が見られる」と分析している。

  社内役員の女性比率は社外役員に比べてかなり小さい。日本総合研究所のリポートによると、23年4月時点でプライム上場企業の社外役員に占める女性比率が25.3%である一方、社内役員に占める女性比率は2.9%に過ぎない。

  東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授は「今まで人材育成をしてこなかったことの表れだ」と指摘し、内部人材を育て上げるパイプラインを整える必要性を強調する。

働き方を見直し

  女性の役員や管理職の育成に重点を置く企業では、出産などのライフイベントと仕事との両立への不安を緩和し、昇進意欲を高めて女性幹部を社内で育てようとする取り組みが進んでいる。

  丸井グループは13年、女性が社員の約45%を占めるにもかかわらず意思決定層に女性が少ないことを課題と捉え、女性の上位職志向や男性社員の育児休業取得率などを含めた女性活躍のための重点指標を設定。毎年全社員を対象に調査を実施してきた。

  時間外労働の削減や男性の育休取得推進などに取り組んだ結果、指標設定当初に8%だった意思決定層に占める女性の割合は約10年後には21%まで上昇した。

  一方、上位職志向のある女性社員の割合は13年度の41%から20年度には70%まで増加したが、コロナ禍をきっかけに減少し、22年度には58%となった。リモートワークの継続を望む社員が多い中で、管理職は出社率が比較的高く、労働時間も長い傾向にあることが背景にあるという。

  「管理職の働き方があまり魅力的に映らないことが問題だ」と、丸井グループ人事部のワーキングインクルージョン推進担当の後藤久美子課長は話す。

  今年初めて全国の管理職約300人を4回に分けて集め、働き方に関するディスカッションを実施。長時間労働が当たり前の環境で経験を積んできた管理職の間にも、若手の昇進意欲を高めるためには働き方を見直す必要があるという理解が広がり、後藤氏は手応えを感じているという。

悩みは変わらず

  内部人材の育成過程では、将来のキャリア形成への不安を緩和することが重要と考えるのは、LIXIL人事部でダイバーシティー&インクルージョンを担当する小林真理氏だ。

relates to 昇進や「幻の赤ちゃん」抱える不安を軽減-女性役員育成の壁に挑む
LIXIL管理部門の打ち合わせの様子Source: Lixil Group

  同氏は、5社統合による11年のLIXIL誕生の前に技術職として入社した。当時と比べると技術職の女性は増えたものの、「悩みは大きくは変わっていない」と話す。

  工場などの現場で働く若手の女性社員は早い段階から仕事と家庭の両立への不安を抱える傾向にあり、挑戦をためらってしまうケースもあるという。まだ結婚も出産もしていないのに想像するだけで心配になる状況を、「『幻の赤ちゃん』を抱えていると、どうしても制限された考え方になる」と説明する。

  小林氏は、女性社員がこうした懸念を抱いていることにマネジャーが気付くことが大事だと指摘する。

  LIXILは、30年までに日本での新卒採用で男女同率を目指すほか、取締役と執行役の女性比率を50%とする目標を掲げる。丸井GとLIXILは、女性活躍推進に優れた企業として「なでしこ銘柄」に複数回選定されている。

投資家の目

  山口教授は、社内から起用する女性役員を増やすには、30歳代、40歳代からの長期にわたる育成に加え、性別役割分業の解消も必要と考えている。

  取締役などの役員に必要な知見を得るためには、社内の幅広い業務で経験を積むことが望ましいが、マーケティングや広報は女性、営業は男性といった典型的な性別分業があると指摘し、「女性の活躍できる業務内容の範囲を広げる必要がある」との見方を示す。

  社内からの女性取締役登用が遅々として進まない企業に対する投資家の目は厳しくなっている。

  三井住友トラスト・アセットマネジメントは1月に適用した国内株式の議決権行使の考え方を昨年12月に改定した際、女性取締役について「社外人材だけでなく社内人材からの選任に向けた施策の推進が必要」などの文言を追加した。

  米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)も「24年版日本向け議決権行使助言基準」で、女性の社外取締役は毎年増加傾向にある一方、女性の社内取締役の登用はいまだ進んでいないと説明。日本企業の経営幹部に女性が極端に少ないことを問題視する投資家もいると指摘している。