鎮目悟志

  • PRIはESG投資を促す目的で国連が提唱、6基金が相次ぎ署名
  • インパクト考慮はESG考慮と同様「他事考慮」に当たらず-政府

ESG(環境・社会・企業統治)投資を巡り、公的年金基金の動きがにわかに活気づいてきた。ここ数カ月、多額の資金を運用する基金が国連責任投資原則(PRI)に相次ぎ署名したほか、社会課題の解決と収益性の両立を図る「インパクト投資」も俎上(そじょう)に上がっている。

  PRIは、ESGを考慮した投資を促す目的で国連が2006年に提唱した投資原則。拘束力はないが、署名した機関投資家はESGに関して責任ある投資行動をとると宣言することになる。

  運用会社や年金基金などの署名機関数は5300超に上る。日本の年金基金の署名数は事務負担などもあり限られていたが、公的年金が動き出している。3月の国家公務員共済組合連合会を皮切りに、5月には地方公務員共済組合連合会と国民年金基金連合会、さらに6月以降、警察共済組合、全国市町村職員共済組合連合会、公立学校共済組合が署名機関となった。

  岸田文雄首相は昨年、都内で開かれたPRIの年次総会で、国内の公的年金7基金、計90兆円規模がPRIに署名する方向で調整を進めると表明しており、基金が行動した格好だ。8日時点で6基金が署名し、残る私立学校教職員共済も手続きを進めていると担当者が回答した。

  他の公的年金に先立ち15年にPRIに署名した年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はその後、ESG指数に基づくパッシブ運用を通じESG投資を拡大させてきた経緯がある。ブームに流されやすいリテール市場で、ESG投資は旬を過ぎ存在感を失ったとの見方が目立つが、今後、公的年金で新たな動きが出てくる可能性もありそうだ。

  組織体制を強化する取り組みも見られる。自営業者などの年金運用を担い、23年3月末時点で約4兆6000億円の運用資産を持つ国民年金基金連合会はPRI署名に先立ち、署名やESG投資などへの対応を行う「フィデューシャリー業務推進部」を立ち上げた。企業年金基金の運用経験者も採用し、同部のメンバーとしている。

  川田元彦部長は、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明し活動してきており、「従来からPRIへの署名は課題として認識していた」と説明。首相の発言もあり、体制強化もある程度図られたとの判断から署名に動いたという。

「他事考慮」に当たらず

  PRI署名とともに公的年金のESG投資に関し動きが出てきのが、インパクト投資だ。GPIFでは、年金積立金の運用で収益以外の目的を持つ「他事考慮」が禁じられている。公的年金の中ではESG投資に積極的なGPIFでも、社会・環境的効果である「インパクト」を目的にした投資はできない。

GPIF President Norihiro Takahashi Reports Investment Results
インパクト投資を巡りGPIFなど公的年金基金の動向への注目が高まっているPhotographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  一方、政府が先月閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の改訂版には「中長期的な投資収益の向上につながるとの観点から、インパクトを含む非財務的要素を考慮することは、ESGの考慮と同様、『他事考慮』に当たらない」との文言が入り、GPIF・共済組合連合会などで整理を踏まえた取り組みを検討するとした。

  これを受け、市場関係者の間で、公的年金基金によるインパクト投資参画への注目が高まっている。

  GPIFの宮園雅敬理事長は5日の会見でインパクト考慮に関する政府の文言に触れ、「非財務的要素の考慮については、私どもが推進してきたESGを考慮した投資との関係の整理をしている」と言及。被保険者の経済的利益を確保する観点から、どのような取り組みが考えられるか慎重に検討していきたいと述べた。

  インパクト投資を巡っては、政府の文言にも通じそうなインパクトを「手段」としリターン獲得を目指す投資と、インパクト自体を「目的」とする投資とに区分する考え方がある。宮園理事長は後者のインパクト創出を目的とする投資については「今後もできないと考えている」と、従来の方針を再確認している。  

  資産運用コンサルティングを手がけるラッセル・インベストメントの谷口和歌子エグゼクティブコンサルタントは最近の公的年金を巡る動きについて、ESG投資への関心を後押しする材料になると指摘。

  インパクト投資については、比較的歴史が浅いことから実践にはインパクトの計測など課題も相応に多く、「関心は高まっていくものの、普及には時間がかかる」との見方を示している。

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