トランプ氏が遊説中のペンシルベニア州で銃撃された。結果的には右耳を貫通する怪我で済んだが、一つ間違えれば命に関わる大惨事になった。現に会場にいた1人が事件に巻き込まれて死亡したほか、2人が重症を負ったと報道されている。銃撃直後、護衛担当者に囲まれて演台を降りようとするトランプ氏は、聴衆に向かって右手を高らかに挙げ、いつものようなファイティングポーズをとった。このパフォーマンスは、結果的に“強いトランプ”を強烈に印象付けた。逆に言えば“弱いバイデン”を浮き立たせたわけで、トランプ氏の支持率はこの事件を機に加速するだろう。命が助かったという安堵感もあるのだろうが、アメリカ的自由を象徴する“銃”が選挙に有利に働く可能性もある。トーマス・マシュー・クルックス(20)容疑者の動機は現時点で不明だが、トランプ氏が18日に予定されている大統領候補の指名受託演説で銃規制を口にするかどう注目したい。

アメリカで銃が広く市民の間に浸透している根拠は、憲法にあるとされている。Googleには次のようにある。「合衆国憲法修正第2条が銃規制をしない根拠とされています。この条文は1791年に制定され、『規律ある民兵団は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない』と定めています」とある。要するに自由な国を守るために憲法が銃の個人所有を認めているのだ。それに異議を唱えるわけではないが、実際問題としては自由を守る大義とは反対に、銃による悲惨な殺傷事件が繰り返えされている。その都度銃規制の必要性が叫ばれてきたが、遅々として進んでいない。ブルームバーグ(B B)によると、「2017年にラスベガスで起きた銃乱射事件でバンプストックが使用されていたことを受けて、トランプ政権はバンプストックを禁止したが、今年6月、最高裁はこの禁止は誤りだったと判断、バンプストックの使用に太鼓判を押した」(16日付コラム)とある。

B Bによるとバンプストックは、「半自動小銃を全自動式(フルオート)並みの速度で連射できるようにする装置」だそうだ。「ラスベガスの銃撃事件では犯人が数分のうちに推定1000発を群衆に撃ち込み、58人を殺害し、数百人を負傷させた」。これが使われていたら、トランプ氏は間違いなく15日からの共和党大会に出席できなかった。A P通信のカメラマンが撮影した写真(前記した写真)がいま注目を集めいている。暴力に屈しないトランプ氏を映し取った歴史的な一枚だ。ここに映るトランプ氏は力強く「ファイト」と叫んでいるようにみえる。聴衆に向かって「共に銃暴力に立ち向かおう」と呼びかけているのかもしれない。自ら銃撃されるという苦痛を伴う体験をした“強い男”が、共和党のかかげる「銃所有の自由」に規制をかければ、これもまたMAGAになる。だが、そんなことは決して起こらないのが政治の世界でもある。18日の受託演説に注目だ。

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