先の東京都知事選で2位に躍進した石丸伸二氏(41)。「マスメディアは当初から自らを取り上げてくれなかった」と批判を繰り返しているが、産経新聞を含む既存の新聞やテレビは、どう映ったのだろうか。石丸氏は動画投稿サイト「ユーチューブ」を活用したが、扇動的な特徴がある。問題はないのか。マスメディアの課題も率直に伝えたうえで、単独インタビューでさまざまな問いをぶつけた。
インタビュー動画はノーカットで公開
ーーインタビューを撮影する動画はノーカットで公開する。
新聞の取材の様子が動画で上がるとは、私は今まで(経験が)ない。前代未聞のバトルが始まろうとしている。楽しみでしようがない。メディアの方は、今まで高みの見物で、都合が悪くなったら逃げるという手も使えたが、今回は逃げられないですからね。
ーー都知事選の結果が判明した直後、メディアの代表取材としてNHKの記者が最初に「敗因は」と聞き始めた。石丸さんは「NHKを始め、マスメディアが当初全く扱わなかった。そういうところだ」と答えた。なぜそう返したのか。
都知事選は知名度勝負だ。みんな知っているだろうし、私もそれが一番の問題、課題だと考えていた。メディアの露出が多いか少ないかが、かなり影響する。そういう意味で指摘したまでだ。新しくない。
感度悪い
ーー最初は現職の小池百合子氏と前参院議員の蓮舫氏による「女傑対決」ばかりに焦点を当てた。正直にいえば、選挙戦の最後の2、3日ぐらい前まで、それに引きずられた面があった。
「感度悪い」って思いましたね。どういう意味かというと、国民が求めている情報を出していない点だ。「わかっていないな」と思った。どれだけ周囲が見えてないんだろうと、すこぶる心配になった。日本のメディアはここまで弱くなってしまったのかと。テレビ局も新聞社も全く相手を見ていないと感じた。
だって、「与野党対決」ってメディアがあおっているだけで、それぞれの選挙区ではそれぞれの候補者が独自の立場で主張を展開している。なのに、毎回「自民が勝った」「立民が伸長した」という。そのテンプレートであてはめていく。
ーー放送法では「政治的公平性」を重視するよう求め、公選法は新聞や雑誌に対し、事実を歪曲したり、虚偽を言ったりしてはいけないと求めている。しかし、「おしなべて候補者すべてを平等に扱え」とまでは求めていない。産経新聞の今回の報道でいえば、取材を踏まえ、選挙戦の勝敗に絡むだろうと判断した小池氏と蓮舫氏、石丸氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏の4人は、選挙戦の勝敗に関係する可能性があると判断し、この4人の発言は紹介し、その他の候補は名前だけを並べるスタイルに統一した。そのうえで、告示後は4人の候補を原則均等に扱った。テレビはおそらく分刻みで(横並びに)扱っただろう。こうした対応は、既存のメディアに飽きている人から「つまらない」と思われ、われわれはユーチューブなどに舞台を奪われた部分もある。
弁護的にいえば、「自主規制」という言葉に縛られすぎてしまっているとの評価もあるが、私は甘えているなと。それを言い訳にして、サボっているようにしか見えない。「自主規制」だから、どこまでがセーフでアウトかと絶えず自問自答できるはずだ。やっているのか。
これだけ時代が変わり、ネットメディア、インターネットの普及で、ものが変わっているにも関わらず「これまで通りのスタイル、スタンスを続けたい」とは。単に自分の立場に甘んじてるだけじゃないか。
ーー選挙期間中は、この4人の公平性を担保したり、特定の人に報道が偏らないようにしたりして、多様な声を伝える狙いもある。紋切り型かもしれないが、こんな理屈があったと思う。ただ、こういう形式を何十年も繰り返し、そこから思考停止のようになっている間、人の気持ちが離れてしまったのか。「マスメディア」といいながら、今は「マス(大衆、大量)」になっているのかという自問もある。
マスメディアは「大企業病」
認識の通りだと思う。でも、なぜ変われないのか。「変わらなくても死なないから」に尽きる。切羽詰まると人間は動く。切羽詰まっていないんだろうな。メディア、特に新聞社の方が状況は厳しいと思うが、それでも、まだこれまでのスタイルを守ろうとしている面がある。「そこは変えたくない」と。
ただ、本当に生死にかかわってきたら選んでいられない。なりふり構わなくなる。だから、まだ余裕があると感じる。しかし、そこで働く人たちは、もしかしたら若手の方にいけばいくほど危機感があるかもしれない。しかし、上に行けば行くほど「自分の退職金はある」と思うのではないか。そうすると、リスクを取って変えようとしない。そこの意思決定がすみずみまで支配するから。そういう意味では「大企業病」なんだろうな。さんざん銀行やメーカーで言われてきたやつだ。
一番の大企業病は、今はメディアに、はびこっている気がする。その病は死に至る病だ。まだ気づいていないとすれば、余計やばい。
ーー開票直後、NHKの記者がストレートに「敗因は」と聞き出したのは、そういう殿様商売的な面が現れたか。
あれは、最も分かりやすいパワハラだ。「自分たちの方が情報を扱うから強者だ」という。無意識か認識下か、わからないが。その前提で話をしないと、いきなり冒頭であんな失礼な質問は出てこない。
お互い職業人で対等の立場だと思っていたら、普通は違う質問から入る。あれが許されると思っているのは、もうおごりだ。メディアはハラスメント気質だ。だから僕はあえてこの期間、そういうのが分かるように裏返して、伝えてきたつもりだ。(聞き手 水内茂幸)
石丸伸二氏インタビュー(全4回)