吉田昂

  • 法的拘束力ない初期的提案を特別委で検討-円安が背景にと識者
  • 7&iHDの株価は大幅上昇、足元の時価総額は約5兆6000億円に
7&iHDのロゴ
7&iHDのロゴ Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は19日、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールから法的拘束力のない初期的な買収提案を受けたと発表した。

  7&iHDは社外取締役で構成する特別委員会を設立しており、買収提案の受け入れの可否などを検討する。経済産業省が2023年に策定した「企業買収における行動指針」は、経営支配権を取得する買収提案を受けた際は取締役会に付議または報告することを原則としている。また、買収提案が具体的で正当性のある内容だった場合、企業は「真摯(しんし)な検討」をするべきと促している。 

  クシュタールは7&iHDに対して「拘束力のない友好的な提案」を行ったことを確認したが、詳細は明らかにしなかった。また合意に達するかどうかは定かではないと述べた。 

  買収提案は同日、日本経済新聞が先に報じていた。報道や発表を受けて株価は大きく上昇し、ブルームバーグの記録に残る05年9月以来最大の上昇率となる前日比23%高の2161円で取引を終えた。現時点の時価総額は約5兆6000億円で実現すれば海外企業による日本企業の買収では過去最大規模となる可能性もある。

  アシンメトリック・アドバイザーズのストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は、「円安が大きなインセンティブになっている」と指摘。7&iHDのコンビニ事業の価値の高さを評価した上で、「イトーヨーカドーやデニーズなどを売却できれば、長い期間にわたって好調を維持できるだろう」とした。

  7&iHDは昨年、アクティビスト(物言う株主)の米バリューアクト・キャピタル・マネジメントからイトーヨーカ堂の売却を求められるなど外圧が強まっており、スーパー事業の新規株式公開(IPO)実現に向けた検討も進めていた。

  一方、今後の成長の柱と位置付ける海外のコンビニ事業では米スピードウエイを2兆円超で買収したのを始め、積極的なM&A(企業の合併・買収)によるシェア拡大を進めてきた。

実現難しいとの見方も

  ブルームバーグのデータによると、クシュタールは北米で約9000店のコンビニを展開。「サークルK」ブランドも含めて店舗総数は全世界で1万4000店を超える。

  クシュタールも買収に積極的な姿勢で、21年に仏小売り大手カルフールに買収提案をしたが、同国政府から強い反対を受け協議を打ち切った経緯がある。最近では仏石油大手のトタルエナジーズから欧州でのガソリンスタンド網も買収していた。

  アンバーザデ氏は、買収価格が明らかになっていないため現時点では買収の規模について推測する余地は少ないとした上で、プレミアムにもよるが7兆円あれば可能かもしれないとの見方を示した。

  過去の海外企業による日本企業への大型買収の事例としては、鴻海精密工業によるシャープへの出資があり、計約4000億円だった。

  ライトストリーム・リサーチのアナリスト、加藤ミオ氏はクシュタールの財務状況を鑑みると、強力な提案をすることは難しいかもしれないとの見方を示した上で、7&iHDは魅力的な水準のキャッシュオファーがなければ売ろうとせず、何かが起きる可能性はかなり低いと思うと述べた。

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原題:Couche-Tard Seeks to Buy $31 Billion Owner of 7-Eleven Chain (1)(抜粋)