[28日 ロイター] – 足元のリビア油田操業停止が世界のエネルギー価格を押し上げている。リビアのこれまでの情勢を以下にまとめた。
◎現状に至る経緯
リビアでは2011年、北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入でカダフィ独裁政権が崩壊した後で全土が混乱に陥って以来、全ての政治勢力や武装組織にとって石油資産は最も手に入れたい権益になっている。
これまでも地域レベルの武装組織から全国的な勢力まで、国家歳入の分け前増加や何らかの政治的要求を実現する手段として、石油生産の停止を実行してきた。
リビアの現在の政治的な行き詰まりは、2014年の国家分裂後の和平プロセスとん挫に起因する。
20年に、国際的に承認されている西部暫定政権の下で翌年12月に予定された総選挙を控えて東部勢力が首都トリポリを攻略して国家再編を目指そうとした作戦が失敗し、いったんは停戦合意が成立。しかし停戦の枠組みは崩れて再び国家のエネルギー収入を巡って東西勢力が争いを続け、直近では中央銀行総裁人事が対立の火種になった。
東部トブルクに拠点を置く代表議会(HOR)や有力軍事組織「リビア国民軍(LNA)」は、トリポリを拠点とする暫定政権によるサディク・アルカビル総裁の更迭方針に反対している。
◎東部勢力の態度一変
アルカビル氏が総裁に就任して13年間、東部勢力は同氏の退陣を求めてきた時期が大半を占めたが、現在は逆に総裁にとどまるよう求めている。
HORのアギラ・サレハ議長は先週、アルカビル氏が更迭されれば石油生産を止めると警告した。
25日には油田地帯において、近年東部勢力の「先兵」を務めている集団が、各油田を占拠して操業を停止させたと宣言。するとHORは声明で、リビアは抗議行動のために石油の生産ないし輸出ができないと述べた。
これらの地域の軍事的支配を続けているLNAのハリファ・ハフタル司令官は、アルカビル氏更迭は違法だと主張した。専門家によると、ここ数カ月でハフタル氏とアルカビル氏が双方に妙味のある条件で手を組んだという。
◎具体的要求
端的に言えば、東部勢力はアルカビル氏を中銀総裁に戻せということしか要求していない。
その背景には、石油収入の支配権を巡る各勢力の果てしないせめぎ合いがある。
前回大規模な油田操業停止が起きたのは22年で、暫定政権のドベイバ首相が国営石油会社のトップをハフタル氏に近い人物に入れ替えたことで、事態が収束した。
これによりしばらくドベイバ氏とハフタル氏がそれぞれの思惑で連携する流れが出来上がり、リビアの石油セクターや燃料輸入に関する統制が緩むとともに、全土に財政資金がばらまかれた。
ところが昨年、ドベイバ氏とアルカビル氏の関係が悪化し、暫定政権の「財布の紐」が引き締められると、また東部勢力と対立する流れが生み出された。
◎和解の可能性
東部勢力は、中銀からより多くの資金を引き出し、対外的に中銀の正当性を主張しにくくすることで、暫定政権が要求に応じざるを得なくなると計算している。
中銀は、リビアの石油収入を保管する唯一の合法的組織で、全土の公務員給与を支払っている。現在の危機によってそれらの機能が阻害されれば、すぐに国民の生活が困窮する。
ただ痛みを受けるのは東部勢力側も同じで、暫定政権は妥協以外の方法を模索し、中銀への影響力行使をやめればかえって状況が悪くなると考えるかもしれない。
一方リビアのより幅広い問題での政治的対立に解決の兆しは見えず、選挙を通じて打開を促す国際社会の働きかけも今のところ進展していない。
この中銀総裁人事で暫定政権と東部勢力が武力行使を検討すれば、事態はこれ以上ないほど悪くなる。
◎油田閉鎖の期間
カダフィ独裁政権崩壊後の混乱が長引くリビアで、油田の操業妨害はおなじみの行動になっている。
ただ地域レベルの勢力による閉鎖は数日で終わることもあるが、大きな政治勢力や武装組織が関係する場合、数カ月続くケースも見られた。
過去最長は、ハフタル氏が20年にほぼ全ての石油生産を8カ月止めた局面で、LNAによるトリポリ攻撃失敗に伴う広範囲の停戦協定の一環としてようやく解決された。