By Gerry DoyleMike Stone

焦点:米軍、対中抑止へインド太平洋で「量産型対艦兵器」増強

[シンガポール 17日 ロイター] – 米国はインド太平洋地域で中国に対する軍事的抑止力を高め、この地域に駐留する米軍を強化する取り組みの一環として、大量かつ容易に製造できる対艦兵器の保有数を増やしている。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、米国では軍事戦略として比較的安価な兵器を大量に常備する「アフォーダブル・マス(手頃な価格の量産型兵器保有)」という新たな考え方が台頭してきた。

オーストラリア戦略政策研究所のシニアアナリスト、ユアン・グラハム氏はこうした戦略について、対艦型を含む通常型弾道ミサイルや艦船など中国の軍事力を考えれば「当然の対応」だと述べた。

米国が力を注ぐのは、安価で大量生産が可能でありながら強力な破壊力を持つ対艦誘導爆弾「クイックシンク」の試験だ。クイックシンクは低コストのGPS(全地球測位システム)誘導装置と、移動する目標を追尾できるシーカー(目標追尾装置)を備えている。米空軍は先月メキシコ湾でステルス型戦略爆撃機「B2」から艦船に向けてクイックシンクを発射する試験を行った。

専門家によると、中国は依然として対艦ミサイル保有数の面でかなり優位に立っている。しかし米国がクイックシンクの生産を増やすことで、将来有事が起きた際に、中国が保有する370余りの艦船を脅かして戦力差を縮小することが可能になる。

クイックシンクはまだ開発途上で、本体はボーイング(BA.N), opens new tabが、シーカーはBAEシステムズ(BAES.L), opens new tabが製造を請け負っている。米国や同盟国に配備し、誘導装置のない通常型爆弾を誘導兵器に変える低コストの「爆弾用精密誘導装置(JDAM)」と組み合わせた使用が想定されている。

消息筋の話では、米インド太平洋軍司令部は数千個規模のクイックシンクの配備を求めており、既に配備も済んでいるが、正確な数は機密情報だとして明らかになっていない。この関係者は、このような手頃な価格の量産型兵器が潤沢に配備されれば、中国艦船の防御能力を圧倒する公算が大きいとの見方を示した。

米軍はまず長距離対艦ミサイル(LRASM)や対空ミサイル「SM6」で中国の艦船やレーダーに損傷を与え、その後クイックシックのような低コスト兵器で艦船を攻撃するシナリオを立てている。

<多様化する兵器>

米国はアジア地域に多種多様な対艦兵器を集めている。4月には米陸軍が新しい地上配備型中距離ミサイルシステム「MRCタイフォン」をフィリピンに展開した。これは既存の部品を使い低コストで開発されたシステムで、SM6や巡航ミサイル「トマホーク」を海上の目標に対して発射できる。

米軍はインド太平洋地域におけるミサイル配備数を明らかにしていないが、兵器調達に関する政府文書によると今後5年間で800発強のSM6ミサイルが調達予定となっている。また、米軍が既に数千発のトマホークや数十万発のJDAMを保有していることも確認されている。

オーストラリア戦略政策研究所のグラハム氏によると、西太平洋と(沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ)第一列島線において米海軍の移動を制限するのが中国の戦略だ。

これに対して米軍がフィリピンなどに対艦兵器を配置すれば、南シナ海の大半の地域を射程内に収めることができる。中国は南シナ海の90%の領有権を主張しているが、東南アジアの5カ国と台湾が異議を唱えている。

シンガポールのS・ラジャラトナム国際学院のコリン・コー氏は米国の新戦略について「ある意味で戦う土俵を同じにすることだ」と指摘する。

同氏は、親イラン武装組織フーシ派が紅海で民間船舶に対してローテクの対艦兵器を使用し、米国などが対抗するために高価な兵器を展開せざるを得なかった事例を挙げた上で、「紅海のケースを見れば対艦ミサイルはコスト面では防御側が不利なのは明白。攻撃型ミサイルシステムは、たとえ量が少なくてもある程度の抑止力が見込める」と述べた。